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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 1

とある地方競馬の競馬場―

雨上がり。ぬかるんだ不良馬場のダートコース。
スタンドの向こう側にはきれいな虹が見えていた。

ファンファーレが鳴り響き、その日の第7レースがスタート。
12頭のサラブレッドが一斉にスタートを切る。

1頭ひときわ目立つ白い馬体が、最初のコーナーを馬群の最後方で回る。
先頭集団が3頭譲らないハイペース、鞍上は落ち着いて仕掛けどころを探る。
勝負どころの3コーナーで相棒を外々に持ち出し、手綱を扱き始める。
みるみるうちに先頭集団に近づき、最後の直線で先頭に躍り出る。
直線はリードを広げ、2着馬に4馬身の差をつける圧勝。


『鮮やかな勝利です、ブランニューラインと北川碧!』

場内実況が高らかにそう告げ、スタンドから歓声が飛ぶ。

「碧ちゃん、見事やったで!」
「今日2勝目やなー」
「次も人気馬だから頼むでぇ!」

コースをゆっくり回って引き上げてくる愛馬・ブランニューラインを称えるように鬣のあたりを撫で、泥まみれの顔で笑顔を作る鞍上―北川碧。

21歳の誕生日を迎えたばかりの彼女だが、デビューから勝ち星を積み重ね続け一躍アイドルジョッキーとして注目を浴びる。

牧場の娘に生まれ、18歳で地方競馬騎手免許を取った後、全日本新人王争覇戦にて優勝、 昨年のレディースジョッキーズシリーズでも王座に輝いた。 
しかし、碧の真価はその戦績ではない。
 
彼女には他の騎手にはない強みがある。
それは、馬の気性を柔らかにする才能だ。 
幼少時から牧場で馬の世話をしていた関係か、あるいは滲み出る母性ゆえか。 
彼女が制御する馬は、元がどれほどの暴れ馬でも素直な優しい性格になる。 
結果としてレース中に気を乱すことなく、安定した最高の成績を残すのだ。 
例えば、デビュー当時に碧の乗っていたオリオールブルーという馬はのちに中央競馬に転厩し重賞を制すにまで至ったが、その勝負強さは間違いなく彼女との触れ合いに起因している。 

勿論、騎手だけの力で勝っていける程甘い世界ではない。
彼女が勝っていけるもう1つの要因は所属厩舎・・・
所属する黒崎厩舎はこの競馬場だけでなく他の地方競馬でも勝ち星を上げ、中央にまで果敢に挑戦する競馬の雄であった。
先代『ダートの魔術師』と呼ばれた黒崎新五郎が築いた黒崎厩舎を現在率いているのが、娘の黒崎紗英。
三年前の代替わりで優秀な助手や厩務員が大量離脱し、縁故でかき集めたスタッフは女ばかり。
しかも新人で入ってきた騎手は女の子で、名目黒崎厩舎も終わりだと巷では確信を持って言われていたぐらいだ。

だが紗英は三十代の若さながら競馬理論や調教技術も水準以上。
特に馬の持つ才能を見極める能力に優れていた。
更にスタッフの女性陣も一長一短はあるものの、紗英が上手く長所を使っていく。
そして碧は紗英が鍛え上げた馬達を上手く操って勝利を積み重ねる。
そして、この女ばかりの黒崎厩舎が地方競馬の台風の目になっていったのだ。


「見事ね、碧」
「ありがとうございます、先生」
真っ白なタオルを片手に碧を迎えた女性こそ、敏腕調教師として名を馳せている黒崎紗英。
見た目は小柄で実年齢よりも若く見えるが、その芯の強さは名伯楽と呼ばれた父譲りである。

「あの仔とはこれでお別れね」
「役目を果たせて良かったです」
ブランニューラインはここで勝ったら中央競馬に復帰するという約束があったのだ。

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