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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 8

「私と一緒なのですね、あの子」

どこか遠くを見るように樹里が言う。

「家を守る為に、最適と思われる婿養子と交配し・・・種付けされて産んだ子を家を守れるように調教し世に出す・・・」

あえて自分の身を競走馬に例え、用語を使いつつ遠い目で言う。
樹里が競走馬オーナーになったのも、そんな自分の境遇と競走馬が似ていたからかもしれない。

「だったら、我が子のように送り出して欲しいの」
「分かってますわ、ちょっと愚痴を言いたいだけですもの・・・それに」

一息ついて樹里がにんまり笑う。

「私の可愛い碧ちゃんが全国区になると考えたら・・・嬉しいような、悲しいような」
「ええっ?!」

いきなり話題を振られて碧は焦る。
本当に必要以上にオーナーから可愛がられて、有難いものの面食らっている所だ。

「滅多にないチャンスだから、大舞台を経験させることで碧がさらに成長するのも期待してるの」
「ええ、もちろん、挑戦するなら鞍上は碧ちゃんと決まってますわ」

紗英と樹里の言葉に、碧は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
レースでは谷口を筆頭に先輩、ベテランに対しても物怖じしない強気な性格だけど、今は歳相応の普通の女の子である。

それに谷口や兼山にはやられてしまった感があった。
碧の騎乗よりもジェイエクスプレスが強かったと言う思いがあったから、喜び半分だったのだ。

「紗英、交換条件と言う訳でないけど、あなたもうちの一族と身を固める事も考えておいてくださいね・・・ジェイエクスプレスの将来を考えてくれるのはいいけど、黒崎厩舎の将来も考えて欲しいですわ」
「・・・まあ、それはおいおいと」

樹里も紗英もいい歳だ。
親友だから樹里が男っ気の無い紗英を心配してるのもある。
そして、自分の希望としては浅岡一族から婿養子を迎えてくれれば今後の付き合いにもなると言うのもある。

「碧ちゃんも、もし希望があるならうちの一族から紹介しますわ」
「私はまだっ、そんな気はっ!」

またこれも飛び火して碧は真っ赤になる。
彼女も紗英同様に男っ気は無い。
むしろ師匠の紗英に対する思慕や樹里に対する憧れの方が強くて男は眼中に無いのもある。

もちろん、碧と年齢の近い若手の男性ジョッキーにはイケメンと称される人気者も、実力確かな者も多く存在する。
ただし碧が地方競馬界のアイドル的存在であるゆえんか、あまり周りからいい評価を得ていないのも事実である。
それこそ、妬みの存在でもあるわけだから…

「碧ちゃんは若いころの紗英にそっくりね」
「い、いや、そんな…」
「これから長いお付き合いになると思うわ。もし何かあったら、いつでも相談に乗るから」
「は、はいっ」

話がそれてしまうところで、紗英が真面目な口調で切り出す。

「ところで、ジェイエクスプレスの次走ですが、東京か京都か、どちらで」

そう紗英に問われて樹里は紅茶を口にしながら考える。
そして、こう聞く。

「では『黒崎調教師』はダービーと菊花賞のどちらが本命かしら?」

樹里の言葉に紗英は苦笑するしかない。
競馬サークルに属する全ての者にとって、ダービーは特別だ。
この問いを聞いてダービーと答えない調教師は殆どいないだろう。
だが、ジェイエクスプレスと言う馬だけを考えた場合はどうか?
紗英は長距離の菊花賞こそジェイエクスプレスの能力が発揮されると思っていた。

「ジェイエクスプレスの能力を考えれば、本命は菊花賞・・・でも、府中の舞台は春の試金石になるわ」

流石においそれと地方の調教師が中央のダービーとは言いにくい。
だがジェイエクスプレスがどれだけやれるかを試すなら、次は府中の舞台だと紗英は思っていた。
長い距離がいいとは言え、中央の中距離に対応するスピードもあると思っている。
もし府中でいい勝負ができたなら、年末のホープフルステークスも視野に入るし、春シーズンも中央参戦とできるだろう。

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