アイドルジョッキーの歩む道は 70
調教技術も超一流で、それでいて3人の子供を育てたパワフルな母親でもある。
ちなみに3人とも女の子でなかなか逞しく育ってるようだ。
佳苗に調教をつけられ気性面で成長しているブラックドラゴン、彼女は豆州湊牝馬クラシック2冠目を射程圏に入れる。
「頼もしいパートナーのおかげで地元じゃ敵なしになりそうね」
「ブラックドラゴンはもっと上だって狙えるからな、とりあえず3冠達成したらジャパンダートダービーと言いたいけど、碧は何人もいないしなぁ…」
龍也は少し悩んでしまう。
「やっぱりアメリカで走らせるか・・・」
「それがいいと思うよ・・・ジャパンダートダービーにジェイカーマインが出るし、あれは通用するんじゃないかな」
調教の様子を見に来た駿太がそう言う。
もうすっかり身内のような雰囲気だった。
「佳苗さんとも話して、お互い通用しそうと言う認識だ」
「お前いつのまに・・・」
「以前から色々計画してたのさ・・・とりあえず彼女は三人産めば満足と言っていたこら、君のお姉さんも産休できるだろうしね」
駿太の口振りからすれば、佳苗と肉体関係もあるのだろう。
もしかしたら子供の種も彼かもしれない。
「相変わらず手回しもいいし、手も早いな」
「君も似たようなものだろ」
男同士思う所ありながらも、彼らの目的は同じようだ。
碧達にとっても悪い話ではないのだろう。
少しばかり不安になりながら聞く紗英も、彼らが真面目に競馬しようとしてるのは分かる。
だが、佳苗と駿太の関係は初耳だった。
そんな佳苗の復帰で調教にメリハリがつき、碧は今週のフローラステークス出走予定のランドマインタルトの調教を終えて馬房に戻ってくる。
「おつかれさま」
そう言って出迎えてくれたのは復帰したばかりの夕美。
ママになった影響か以前よりふっくらしていた。
「厩舎が本当に明るくなったと言うか・・・みんなオンナしてるわ」
「・・・やっぱりそう見えるんですね」
楽しそうなと言うか、完全に面白がってるような顔で夕美が言うのを、碧は困ったような笑顔で返す。
「碧ちゃんもオンナの顔よ・・・カレのモノにぞっこんって顔してるわ」
「もうっ、何て見方してんですか!・・・そんだけエロい事ばっかり考えてるとっ、また産休なりますよ!」
「あははっ、それは碧ちゃんの子供抱いてからにするわ」
にこやかに笑う夕美。
こんな会話は碧も実は嫌いではない。
以前なら毛嫌いでもしてたのだろうが、それが変わったのは龍也に出会い身体を捧げたことが理由だろう。
碧だけでなく黒崎厩舎のスタッフ全体がオンナを上げてイキイキして競馬にも結びついている、そんな感じだ。
「まずはこの仔で2人の復帰祝いをしたいな」
ランドマインタルトが挑むのは3着までにオークスへの優先出走権が与えられるフローラステークス。
元々この馬の担当は夕美。
産休で交代していたが、オークスへ導けばいい復帰祝いになるだろう。
「あっ、夕美さん・・・赤ちゃん見に行っていいですか?」
「いいわよ、今ダンナが木原厩舎に見せに行ってる筈だから行っておいで」
そう聞いた碧は木原厩舎に行ってみたのだ。
木原厩舎に顔を出すと、美智子が赤ん坊を抱いていた。
「こんにちは!、その子夕美さんの赤ちゃんですか?」
「いらっしゃい、そうよ・・・わざわざ見に来たのかしら?」
美智子も2児の母だけに抱き方が様になっている。
碧が赤ん坊の可愛さにデレデレしていると、美智子が微笑んで言う。
「皐月賞、アレに先着してくれてありがとうね」
「・・・美智子さんもまだ気になってます?」
「アレの無節操ぶりは腹も立つわよ・・・ただ腹立っても恨みきれないのが厄介だけどね」
アレと表現する辺りまだ怒りもあるのかもしれない。
ただ怒り以外の感情もあるようだ。