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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 69

恐らくこの子は六歳前後。
厩舎から彼女の住む厩務員アパートが数百メートル程と言え、この時間は真っ暗だ。
女の子がよく来たものだ。

美波は香澄を抱き上げながら笑みを浮かべる。
碧にとっては実家の母を思い出す笑みだ。
碧の母は大半の時間は女の顔をしている困った人だが、たまにこんな母親の顔をしたりしていた事を何となく思い出して苦笑してしまう。

「あたしはこのまま帰るわ」
「はい、おつかれさま・・・香澄ちゃんまたね!」
「またねぇ!」

初対面でも人懐こい笑顔を見せる香澄。
美波のプライベートなんて踏み込んで聞かなかったけど、子供がいたのは驚きだった。
美波と香澄を見送っていると、今度は里穂が涼みに出てきた。

「今日は溜飲が下がったわ、ありがとう」
「でも、勝てませんでしたけどね」

彼女も思う所あったのか笑顔だった。

「あの男さ・・・つい最近も会わないかってメールあったのよ」
「まじで!」
「まじで・・・風俗してた時の美波の所にも客として来たし・・・猿以上に無節操よ」

里穂の言い方に碧は笑ってしまった。

「里穂さんはまだ?」
「嫌いだけど・・・好きなのかも・・・尚樹くんがいなければ好きなままかも」

よほど野川賢人と言う男はいい男らしい。
無節操で無責任ではあるが。

「先生は・・・気持ち残ってるのかなぁ」
「美波や私と違って紗英先生は切り替え早いし・・・何より尚樹くんに落とされてるからね」

尚樹と言う存在で、紗英は随分癒されたのだろう。
そして美波や里穂もそうだ。

「でも1番の理由は碧ちゃんかな」
「私、ですか?」
「そうよ、みんな碧ちゃんのお陰で厩舎が明るくなったんだから・・・最初始めた時は本当に絶望的だったもの」

碧はデビュー前の厩舎の経緯は伝聞で少し知ってるだけだ。
恐らく相当な苦労があったのだろう。
勿論、デビューしたての頃も大変だっただろうが、碧は自分の事に必死で周りの事なんて頭に入っていなかった気がする。


次の日、半年余り産休を取っていた二人のベテランが黒崎厩舎に戻ってきた。
先代からの調教助手、新堀佳苗と厩務員の新堀夕美だ。

同じ姓だが、彼女達は実姉妹ではない。
夕美の夫が佳苗の弟なのだ。
その弟は木原厩舎の厩務員と言う、彼女達も競馬界の中で生きている人達だ。

因みに佳苗に夫はいない。
所謂シンママなのだが、意外と気にされない世界である。

「お久しぶりです!」
「久しぶりね・・・厩舎が明るくなってるね」
「きっとみんないいオトコができたんだろうね」

碧は意味深に笑うが図星である。
しかし、二人の復帰は大きな戦力アップだった。
佳苗の調教技術は紗英が最も信頼していたし、ダービー前に間に合ったのは幸運としか言い様がない。


復帰して早速、佳苗は黒崎厩舎の看板馬たちの調教を任される。
その1頭、黒鉄の女帝ブラックドラゴン。
牝馬にしては荒すぎる気性の彼女が、佳苗を背にすると一変、優等生のお嬢様に変貌したのだ。

「この仔すごく乗り味いいねー」
「ああ…姐さんいったい何者なんだよ…?」
これには龍也もビックリである。

「えっと、新堀祐司さんのお姉さんだよ」
「あいつのか・・・姉貴がいたって聞いてたけど知らなかったぜ」

佳苗の弟、新堀祐司はかつては黒崎厩舎の厩務員で、木原厩舎立ち上げ時に移籍している。
祐司とは顔馴染みだった龍也だが、佳苗とは初顔合わせであった。

それもその筈、彼女は紗英と共にヨーロッパ留学に行っており、本格的に黒崎厩舎に入ったのは紗英が跡を継ぐ2年程前だ。
その時期、龍也は実家と没交渉だったから知らないのも無理は無い。

「はっきり言って、佳苗の調教術は私も勝てないわ・・・男癖の悪い以外は完璧だからね」
「ああ見えて三人の子持ちですもんね」

紗英と碧が龍也にそう言う。
因みに最初の子供はハーフで、海外留学中だった。
技術と子種を吸収してきたのと本人はあっけらかんと言うあたり大したものである。

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