PiPi's World 投稿小説

アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

の最初へ
 54
 56
の最後へ

アイドルジョッキーの歩む道は 56

長距離故に中に付ける方がいいのだが、エクセレンスギアのスタミナを考えるとそこまで神経質にならなくてもいい。
ただ最初のメインストレートだけは、1頭外に挟んで気性のうるさい馬がヒートアップしないように注意を払った。
だが、一瞬エクセレンスギアがスタンド前で行きたそうな素振りを見せ、ゴール板を過ぎた辺りで緩めようとした。
どうやら気性は荒くとも弟のように賢い馬らしい。

碧の頬が綻ぶ。
この兄は愚兄ではない。
晩成型なだけで、この賢さはきっと武器になるだろう。
何より気持ちよく走る素振りが好ましい。

レースはメインストレートを越え第1コーナーへ。
後一回りだ。
ペースは逃げ馬が既に7馬身も離し早くなっているが、エクセレンスギアは気持ち良さげで安心できる。
何よりホームの豆州湊は最長で2600mなので、碧にとって3000mは未体験の距離で、色んな意味で学ぶ事が多い。

向正面に入ると徐々に2番手以降の集団が差を詰めていく。
大逃げを打ったワイズクールも2600までしか経験はないがスタミナのある血統だ。
何よりハンデが軽い。それが脅威だ。

トーコウリバティが一番後ろからじわじわと動いてエクセレンスギアの外に並んだ。
3年前ではあるが春の天皇賞で3着に来た古豪ステイヤーだ。
まるで馬自身がコースとペースを熟知してる感じすらある。

馬だけでない。
人馬共に熟知しているのだ。

淀の長距離を制するのは名手の証。
たとえオープン戦であれ、中央の騎手にとっても淀の長距離は特別なものなのである。

とは言え、碧としても負けてやる道理は無い。
碧がここまで関係者に信頼されてきているのは何も技術だけでない。
少しでも高い順位へと馬を導く執念のようなものが強いからだ。
特に地方競馬はそう言う勝負への執念が強い騎手が多いからこそ、気迫で負ければ飲み込まれてしまう環境なのだ。
そんな中でやってきて、碧は地元の気の強い騎手達からも『あの姉ちゃんは最後まで譲らねぇ』と憮然と言われるぐらいなのだ。
中央の騎手達に比べれば執念の量が違った。

碧はバックストレートで我慢をしつつジリジリと押し出し、京都の坂へ。
今度はゆっくり上り、ゆっくり下っていく。
外を回すが手応えは抜群。
もう馬群はかなり詰まって、後続まで一塊になっていた。
碧とエクセレンスギアは直線立ち上がりで8番手ぐらいだが、十分であろう。

外回りの3コーナーから4コーナーへ、植え込みの向こうで馬群が凝縮する。
エクセレンスギアはじわじわ上昇しながら外を回る。

2番手を進んでいたゴールドヴィガーが先頭に立つ。
内のワイズクールが粘り込みを図るが、その2頭の間をスーッと抜けてランドアヴァロンが伸びてきた。
エクセレンスギアはコースの真ん中より外目。
さらに外からトーコウリバティが並んでくる。

碧は全く焦りなく直線入ってやや間を置いて鞭を入れる。
スピードに劣るとは言え、スタミナを十分に温存している。
エクセレンスギアは鞭に即座に応え、グンと加速していった。

グングン加速する感じは弟のエクスプレスによく似ている。
弟と同様一瞬の切れは無いがしぶとく伸びていく。
残り200mで先頭集団を捕らえるまで加速し、その勢いは止まらなかった。

そして残り100m。
先頭に躍り出る。
エクセレンスギアの手応えは衰えるどころか、更に加速しそうですらあった。

生粋のステイヤー。
日本でも世界でも減少していくタイプが、碧の乗るエクセレンスギアだろう。
そして、その弟のジェイエクスプレスもそうだ。

SNSでこの小説を紹介

スポーツの他のリレー小説

こちらから小説を探す