アイドルジョッキーの歩む道は 54
今年5歳。
主戦騎手は去年から諸澄舞で、彼女が関東で乗るので乗り代わりだった。
年末にその舞の手で準オープンから抜け出したばかりであり、レッドゴット軍団の総帥岡山の個人所有の馬だ。
父は狂乱のリボー系、エイショウサイゴン。
力強さとスタミナはあるが、スピードが足りなくて条件戦をウロウロしていた馬だ。
ジェイマリーナは同年代3強や、期待のブラックドラゴン程でないが、芝の方が適正ありそうと言う駿太のアドバイスで中央参戦を決めた牝馬だ。
この2頭も期待だが、地方騎手の碧に期待する中央の調教師も多いようだった。
こうやって騎乗依頼が来るのも、年末のあのレースが関係者に高い評判だったかららしい。
それに碧自身も年明けから絶好調だった。
心身共に碧自身が充実しているのと、紗英の結婚効果か黒崎厩舎自体が活気に満ちているのだ。
ジェイマリーナ担当厩務員の唐沢愛もお肌つやつやで輝いているが、彼女だけでなく全員がそうだった。
滅多にないはずの中央遠征が年明けいきなりからあるのだ。
もちろん自身のメイクだけでなく相棒の担当馬の調整もバッチリだ。
「一発やれそうな出来かも」
「さすが愛さんです」
パドックで静止命令があり、碧がまたがる。
程よく気合が入ったいい状態だ。
京都のダート1800mは、メインスタンド前からスタートして一周するレースだ。
ダートコースにもかの有名な3コーナー、4コーナーの坂があるが、他はほぼ平坦である。
直線は芝はそこそこの長さだか、ダートコースは直線が330m弱と短い方だ。
ジェイマリーナにとっては、この距離が丁度良いぐらいで、ここでもし勝てればクラシックを目指すローテも考えられる。
牝馬としてはブラックドラゴンに素質は及ばないが、素質は十分過ぎるぐらいあった。
ここは十分勝負になる筈だ。
15頭立てのレース。
牝馬はジェイマリーナ含めて3頭。
単勝人気は11番人気、やはり地方馬ということもあってかあまり売れる傾向にはない。
ただし関係者は違う。
鞍上が碧だから、ただの地方馬ではない、能力のある馬と意識する者もいる。
学や沖田、南原…それに糸居。
碧の腕を知る者たちは、単なるお客さんでないと感じていた。
そしてスタート。
メインスタンド前の先行争いで、自然な感じで先頭集団の3番手に付ける。
逃げ馬を見つつ第1コーナーへ。
京都競馬場は第1第2コーナーがやや小さく、第3第4コーナーが大きい作りになっている。
そして第3第4コーナーはゆるやかであるが、名物となっている大きな坂がある。
中央の名手達が語り継ぐ『ゆっくり登ってゆっくり降りる』京都の坂だ。
それは今の時代も変わらない。
碧とジェイマリーナは3番手維持。
ペースはやや早めの平均に近いぐらい。
先行馬もさほど影響は無い。
碧は京都での騎乗は初めてだが、さほど乗りにくい印象は無い。
勿論、京都の坂の知識はあるから油断はしていない。
碧とジェイマリーナは3番手を維持しつつ第3コーナーへ。
いよいよ京都の坂の登りだ。