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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 52

この天才は常にライバルを意識し、マークするような競馬をする。
それは先日、有馬記念のマルゼンホワイトでも一緒だった。
おそらく彼は、諸澄巧はジェイエクスプレスを意識している。
碧もうすうすそれを感じていた。

最初の1000m通過はジャスト1分。
前も粘れる、後ろも届く、平均ペース。

ナルトブレイザーの外に、じわじわと忍び寄る馬が1頭。

ワイズフォーミュラ。
ヴィングトールの2着が2度あるちょっと運のない馬で、こちらも前走500万下特別を勝っている。
鞍上は沖田優。
31歳の中堅ジョッキーで、平地障害両方で活躍する「二刀流」だ。

障害で鍛えた柔らかい乗り方と、彼の異名は『大穴の沖田』である。
人気薄で一発大穴をG1で何度も決めており、大舞台の強さこそが彼の持ち味だ。

その沖田とワイズフォーミュラは人気を落としていたが、それが逆に発奮材料なのだろう。
そして、諸澄の後ろで隙を伺ってるようにも見えた。


そんなレースはバックストレートを過ぎて3コーナーへ・・・
ペースも変わらず大きな動きはない。
先頭のシャドーハイロウも快調に飛ばし、人気馬もまだ動かない。

碧は位置取りだけを意識していた。
前が詰まる事態だけは避けたいし、クラシックでどこまで通用するかは見たい。
故に碧が動いたのは、4コーナーに入る直前であった。

当然ながら普通なら早い。
だが、もしここにヴィングトールがいたら・・・
このタイミングで動いて差を広げないと差しきられるだろう。
碧は頭の中でヴィングトールを思い浮かべながら、中団からジェイエクスプレスを動かしたのだ。

そしてこれで、人気馬のジョッキー達に緊張が走ったのだった。

早めに動いたらゴール前で脚が上がるのでは?
誰もがそう思い込み、追随する者はいなかった。諸澄さえもだ。

そして直線の入り口で後続ジョッキーたちは唖然とする。
ジェイエクスプレスは先頭のシャドーハイロウをかわすと一気に突き抜け、4馬身ほどのリードを作ったのだ。
ナルトブレイザーも続こうとしたが、内にランドバリオス、外にワイズフォーミュラがいて挟まれる格好になってしまう。

碧が想定しているのは、皐月賞でのヴィングトールとのマッチアップ。
あの電撃の脚に対抗する術は、ジェイエクスプレスの豊かなスタミナを生かした先手必勝の早めの仕掛けが有効なのだと考えたからだ。

直線入り口でジェイエクスプレスは先頭。
残り300mの直線と、中山名物の急坂。
だが、ジェイエクスプレスの手応えは抜群だった。

ぐんぐんと坂なんて無いが如くの加速。
1馬身、2馬身と差は開いて行き、ジェイエクスプレスは軽やかに跳ぶ。
そして4馬身もの差をつけてゴール。
まさしく完勝だった。


完勝にも碧はゴーグルを取り厳しい顔をしていた。
出たタイムは2分2秒。
2歳馬としてはかなり早いタイムだろう。
しかし、ヴィングトールと皐月賞で戦うには1分59秒台は必要だと思っていた。
3秒ならヴィングトールに差しきられている。

そして諸澄巧は、きっとこのデータを脳裏に焼き付けてるだろう。
皐月賞まで人馬共にパワーアップしていないと勝負にもならないに違いない。

G1に勝ったのに気分が沈みかけたが、碧は自分の両手で頬を叩いて気持ちを切り替える。
そして、ジェイエクスプレスを労うようにポンポンと首筋を叩いて戻ったのだった。


最初に碧を出迎えたのは、普段は控え目にやってくる樹里だった。
その横には婚約者の駿太と弟の尚樹もいた。

「碧ちゃん、有り難う・・・素晴らしいレースでしたわ」
「オーナー、G1勝利おめでとうございます」

思った以上に喜ぶ樹里に碧もホッとしていた。

「僕のクラブはまだG1勝利してないけど、これは嬉しいな・・・それで、あれとの勝負はどうなりそうだい?」 
「厳しい相手です・・・もう少し距離が欲しいぐらいです」

あれとはヴィングトールだろう。
御台グループの傑作である馬の素質は駿太も知ってる故の質問だった。

「ヴィングトールは・・・まあ日本の競馬の集大成だよ・・・まさか敵になるとは思わなかったけど!」
「何を言ってるんですか、ご一族でしょうに」
「今の僕は既に浅岡駿太のつもりさ!」

来年のジューンブライドでそうなる予定とは言え、婿入りする故の言葉だろう。

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