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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 5

やられた!・・・
谷口のベテランならではの妙手にやられてしまったのだ。
逃げる逃げると最初から言ってたのは本心を隠す為だろう。
普通に逃げる事しか頭に無かったが、谷口が考えた作戦はジェイエクスプレスのペースを乱しての撹乱だったのだ。
他の有利馬もジェイエクスプレスに行き足を見てペースを上げたから、もうこれは谷口ラップの術中・・・
これぞ名手谷口の真骨頂だろう。

やってくれる!・・・
碧は戦慄を感じながらも、この状況の打破を考える。
精神的にまだ若く、引き釣られて行き足はついたがそこまで酷いペースではない。
1800mは未体験の距離だが、血統的には長い距離が向く構成だ。
警戒すべきはヨシダッシュのペースと前に有利馬が固まる中で後ろでひっそり走るダイリキセブン。
豪腕の異名を誇る兼山が乗るこの馬は警戒すべき鬼脚がある。
もう1頭のコクブファイターも同じく釣られて近くにいるが、こちらも騎手が上手く制御してる様子だ。
他の地方競馬で余り面識は無い緒方と言う若い騎手だが、実力は一流だと言う。
つまり、全く気が抜けない展開であった。

スタート直後はややごちゃついたが、次第にペースは落ち着いていく。
若干掛かり気味だったコクブファイターも折り合いがついた模様。

ヨシダッシュは淡々と逃げている。
しかし二番手のデンゲキエースがじわじわと接近して後ろからつつく格好。
ジェイエクスプレスは好位の外側。碧はまだ手綱を引いたまま。
その外をスーッとまくろうと試みる馬が1頭…ジェイエクスプレスの3勝めのレースで大敗し人気を下げているエスケーシャークだ。

エスケーシャークに騎乗する前岡騎手はこの競馬場の若手ナンバーワンだった。
この競馬場の名門前岡厩舎の一族で、かなりプライドも高い。
今やその地位を碧に奪われかねない形で、名門前岡軍団共々かなり碧に対する当たりもきつかった。
恐らくこの前は後ろから捲られての惨敗だっただけに、エスケーシャークと共に雪辱に燃えてるのだろう事は見なくてもわかる。

バックストレートも終わりに差し掛かった辺りで、デンゲキエースがヨシダッシュに外側から並びかける。
単騎逃げが決まるなんて谷口も思ってないだろう。
恐らく何かを仕掛けてくると、碧は名手谷口の動きを見守る。
そして3コーナーに入った所でデンゲキエースが頭1つまでヨシダッシュ迫る。
だが、コーナーで大きく外に流れたのだ。

この競馬場は中央の競馬場のようにコーナーにはバンクが無く平坦である。
なのでコーナーでスピードが乗り過ぎると外に振られる。
そんな事は騎手なら分かる筈だ。
なら、このデンゲキエースの動きは何だ?・・・

その時、碧は気付いた。
内ラチ沿いだったヨシダッシュがやや内が空いている。
その微妙な間隔は振られたのではない。
ペース配分を誤魔化し、コーナー前でスピードを上げさせ、ヨシダッシュは速度を調整して綺麗に回る。
そして、この間隔は・・・
デンゲキエースを所定の位置まで飛ばす為だとするなら・・・

またやられた!・・・

デンゲキエースはジェイエクスプレスの進路の真ん前。
しかも内にコクブファイター、外にエスケーシャークに挟まれているのだ。

気のいい先輩だが、あの人は勝負師谷口なのだ・・・
能力でジェイエクスプレスに劣るヨシダッシュで勝つ為の戦術を駆使してる。
その事に碧は戦慄してしまったのだ。

だが、打開はできる。
まだ3コーナーだ。
4コーナーと直線があればきっと活路はどこかで開く筈だ。
ジェイエクスプレスと己の勝負勘を信じ、碧は神経を研ぎ澄ませる。
幸いジェイエクスプレスは動じていない。
スタミナも心配なさそうな走りだ。

どこかで道は開けるはずだ。
そして、外のエスケーシャークの動きを封じるのだ。
だったら、するべきことは何か?短い時間の中で碧はひたすら考える。

4コーナー手前。
ヨシダッシュは相変わらず飄々と逃げる。デンゲキエースの方が手ごたえが怪しくなってきた。
デンゲキエースは元が短距離〜マイルあたりが適距離の血統だけに苦しい競馬だったはずだ。
コクブファイターが、エスケーシャークがそれを見て鞍上の手綱が動き出す。

ここだ!
碧は後退していくデンゲキエースが作ったわずかなスペースへ飛び込む。
ステッキが一発繰り出され、ジェイエクスプレスが一気に先頭をとらえにかかる。

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