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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 4

ハロンごとにラップタイムを微妙に増減させて幻惑させる技を得意とし、その『谷口ラップ』に足を掬われた強豪も多い。
やっかみが多く敵の多い黒崎厩舎と碧だが、彼は手強くも頼りになる先輩であり、数少ない味方だった。

「嬢ちゃんとこのジェイエクスプレスはいい馬だなぁ」

飄々とした感じでそう言う谷口に、碧はどこか故郷の父に通ずるものを感じる。

「今回は手強いのが多いから大変だな・・・ウチはもう白旗上げるね」
「何を言ってるのですか!、ヨシダッシュは調子いいって聞いてますよ!」

明後日のジェイエクスプレスのレースには谷口もヨシダッシュで参戦する。
小柄な身体で東京大賞典や帝王賞を勝った『黒い砂王』ヨシキング産駒で、母馬も地方競馬出身のまさに地方競馬の結晶。
良血とは言えないが、谷口の見事な騎乗と抜群のダート適正でここまで3戦1勝。
負けたレースも差されてから二枚腰で巻き返すと言う勝負根性を見せていた。
それだけに谷口が簡単に白旗上げる筈は無い。

それを知っている碧の真剣な眼に、谷口は感心しふっ、と小さく笑う。

「いい目だ」
「…」
「まあ、明後日はどこまでやれるか試金石ってとこかな。ただ、そのあとになると話は別だがな。ウチのは中央の芝の重賞じゃ勝ち目はないだろう」
「それは、やってみないとわかりませんよ」

口ではそう言ってるものの谷口の本心は違うだろう。
谷口のもう1つの異名は『勝負師』
ここ一番で本命馬を破る事を得意とするからこそ伝説と呼ばれるジョッキーとなり、この年齢まで現役でいられるのだ。

「またまた、本心じゃないですよね」
「まっ、おいらはヨシダッシュと気楽な逃げの旅ってとこさ・・・お嬢は中央まで頑張んな」

おどけながらも飄々と手を振り去っていく谷口・・・
大先輩がかなり本気なのだと碧も思い、その背中を真剣に見つめたのだった。

そして開催日。
二歳特別戦、さざなみ温泉特別。
ジェイエクスプレスにとって勝負のレースだ。
人気はジェイエクスプレスと他の地方競馬からの参戦組二頭、ダイリキセブンとコクブファイター。
どちらも連勝中で紗英が警戒する有力馬である。

碧にとって幸運なのは外枠である事。
外隣にいるのは谷口騎乗のヨシダッシュだが、戦前から逃げる宣言通りに走るだろうから変な位置で被せられる事はないだろう。
まぁ、ベテランの言葉は額面通り取り過ぎるのは危ないが。


紗英は今日の出走馬をジェイエクスプレス1頭に専念し、碧も普段より騎乗数を抑えた。
それだけメインに力を入れている証拠である。
ここを勝てば東スポ杯2歳S、もしくは京都2歳Sへの出走権が手に入るのだ。

ダート1800mの一戦に14頭立て。
快晴で良馬場、パサパサのダートは時計がかかりやすい。

気温も平年より高くダイリキセブンは馬体に発汗が目立つ。
もう1頭の人気馬コクブファイターはパドックでイレ込み気味だ。
対してジェイエクスプレスは至っていつも通りで落ち着いている。

パドックから通路を通り馬場へ。
この競馬場で直線は約250mと地方競馬にしては普通で、1800mなら直線奥にあるポケットからスタートし一周走ってゴールとなる。
ジェイエクスプレスは12枠。
内枠が比較的有利と言われる競馬場だが、碧に外枠の不安はない。
ゲート入りにうるさい馬も数頭いたが、ジェイエクスプレスは大人しく入る。

そしてゲートが開く。
碧は落ち着いたスタートを切れた。
外隣のヨシダッシュのスタートが素晴らしく、半馬身程リードする絶妙スタート。
流石は名手と思った瞬間、碧は谷口の手を見てしまった。

谷口の鞭を持つ手が動く。
出ムチ・・・
いや、スタートのいいヨシダッシュはあえてスタートで鞭は必要無い筈・・・
そう、谷口は鞭は叩かなかった。
しかし、ヨシダッシュは猛然とダッシュ。
それが『見せムチ』だと気付いたのは一瞬遅れて・・・
谷口の行動にジェイエクスプレスまでが引きずられ、普段より行き足がついていたのだ。

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