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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 39

その忍には、さっきまでずっと学が側にいた。
側にいたと言うか、まるで子犬のようにまとわりついていた。
物凄く姉が好きなのが出ていて若干微笑ましくもあったが、忍は表面上はやや迷惑そうにしつつも弟を相当可愛がってるんだろうと言うのは何となく伝わってはきていた。

その気持ちは碧にも分かる。
碧にも妹がいるが、現在競馬学校に入っている藍とは仲がいいし、兎に角可愛い。
場所は違えど同じ道を歩いているから余計にそう思うのかもしれない。

そしてそんな感じでパドックから本馬場へ。
なでしこウインターカップは2200mで行われるレースで、スタート位置はバックストレートとなる。
そこから一周半してゴールとなる訳だ。

今日はよく晴れ、冬らしい乾燥した空気でダートはパサパサだろう。
バックストレートの向こうはすぐ海で、悪天候でも飛沫はこないものの夏場はややダートが湿り時計が出やすい。
だが、冬場は山からの空っ風で乾燥してパサパサになりやすく、時計のかかるタフなコースに変わる。

それは地元の常識だが、ここに来る騎手の頭に入っているだろう。
だが、地元しか分からない微妙な変化だってある。

今日の碧は最も外の枠。
今日の気温や風を考えると、これはラッキーかもしれないと碧は思った。
プチラズベリーは真っ先にゲート入りしたものの落ち着き払っている。
彼女にとっては最後であるが、長年やってきた日常なのだろう。

最後にラストシンフォニーが入ってスタートがかかる。
ゲートが開いた瞬間、凄い勢いで飛び出したのはプチラズベリーだった。
この競馬場のバックストレートには地元しか分からない変化があり、冬の乾燥気候の時でもやや湿り気を帯びている事がある。
たまに吹く海風や気温などでそれが起こるのだが、これは地元じゃなければ分からないぐらいの変化だ。
碧はそれを利用して、やや湿り気を帯びたダートを使ってハナを取る作戦に出た訳だ。

地方競馬において鉄則は綺麗に先行して主導権を得る事。
実力で劣る時は尚更である。

プチラズベリー自身はどこからでも競馬できるセンスの持ち主。
下のクラスにいた時には後方一気や大胆な捲りでも勝ったことがある。
しかしクラスが上がって、特に交流重賞では先行策の方が好成績を出してきた。

人気の中央勢2頭はけん制してるのか、それとも距離を意識してかプチラズベリーに競りかけまではしない。
谷口、松戸、忍の馬はさらにその後方だ。

その間に碧はプチラズベリーをスピードに乗せる。
無理矢理インに切れ込むような事はせず、外側の湿り気を帯びた時計の出る部分を走らせてアドバンテージを稼いだ。
こうすると3コーナーでやや外回りになるのだが、楽々ハナを走れた効果は非常に大きいのだ。

そして3コーナーから4コーナーと、碧は後ろを見つつインに寄せていき、メインストレートでは内ラチに近い所を楽走。
ペースも平均的で良いし、折り合いをつけるのが得意な碧にとっては得意パターンに入れたと言っていい。

それにやはりプチラズベリーが終わった馬扱いにされてるので、有力馬にとってはペースメーカー扱いなのたろう。
だからと言って負けてやる義理は無い。
碧はプチラズベリーをリラックスさせる事だけに集中しながら1コーナーに入った。

「いいねぇ、実にいい」

後方集団の中にいる谷口が呟き笑う。
彼は碧の狙いに気付いた1人だ。
後輩としてライバルとして、認めてるものは認めている。

この展開だと逃げるプチラズベリーにちょっかいかける馬はいないだろう。
つまり、碧の作ったペースのままレースが進む事になる。
それがどれだけ有利かはペース作りの職人である谷口には十分理解できている。
そして攻略法も無い訳ではない。

特に鍵となる人気二頭がお互いしか意識していない。
そう言う時は更にチャンスが広がってくる。
谷口は2コーナーを回りバックストレートに至ると馬を外側に出す。
つまり碧がやった事と一緒。
馬に負担をかけず差を詰めにきたのだ。
恐らく周囲から見れば早すぎる仕掛けに映るだろうが、そうやって考えすぎてくれるぐらいが上手く行く。
谷口に釣られてスピードを上げた馬もいるが、インだと脚を使ってしまう。

こうして谷口は中団までスルスルと順位を上げていき、先頭集団を見れる位置までやってきたのだ。
その谷口の位置にはマイペースで走るラストシンフォニーと松戸もいた。

松戸の方はまさにマイペースだった。
牝馬の折り合いに定評がある通り、ぴったりと人馬一体で走っている。
その彼が谷口が来たのを見てニヤリと笑う。
彼も仕掛け所を探ってるのだろう。

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