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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 34

そして、これで今年の碧にとって最後の大レースとなるのがなでしこウインターカップでのプチラズベリーだけとなった。
それだけでない。
最終週を前にしたリーディング争いで、碧は谷口に1勝差で首位。
もし碧がこのまま首位をキープできると、デビュー3年にして初のリーディングジョッキーとなる。
その上、なでしこウインターカップはJpn1グレードである為に賞金額が競馬場でトップの為に、勝てば確実に最高賞金額のタイトルも手に入れれる。

今年は期待の2歳馬だけでなく、3歳馬や古馬も成績が良く、黒崎厩舎自体もリーディング3位と好調。
碧個人としても黒崎厩舎としても充実した一年だった。

豆州湊競馬場では毎週火曜日から木曜日までの3日間の開催で1日8レース行われる。
つまり最終週も合計24レースあるのだ。
その内、碧は18レース、谷口が14レースに騎乗予定・・・
これは碧に比較的好意的な厩舎が馬を回してくれたからである。
やっかみの方が多くて苦労も絶えないが、こうやって少しの味方がいてくれるのが心強い話だった。


早朝、調教を終えて引き揚げてくる碧。
パートナーは遠目からでもよくわかるほど真っ白な馬体。
かつてコンビを組んでいたブランニューラインは芦毛だが、こちらは白毛。
日本競馬の歴史でもそんなに数いない白毛馬が、豆州湊には3頭現役で所属する。

「ありがとう、碧ちゃん」
「いえ、すっごくおとなしい仔ですね、この仔」

木原陽介は紗英と同時期に厩舎開業した調教師で、碧に好意的な陣営の一人だ。

「ああ、だが闘争心に欠けていてね・・・君やうちの家内みたいに気が強くなればいいのだけどな」

冗談めかして馬上の木原調教師が言うと、隣の馬上の彼の妻が夫の背中を強くバンと叩く。
木原夫妻は厩務員として黒崎厩舎で働き、紗英の1年前に開業。
黒崎厩舎の代替わりの危機の時も随分助けてくれたし、碧もデビューから世話になっていた。

「素直なのは才能ですよ・・・うちの厩舎はやんちゃな子が多いから大変ですもの」
「ははっ、この前入った黒い美女も早速やらかしたらしいね・・・だが、競走馬はやんちゃぐらいがいいのさ」

紗英と黒崎厩舎は気性難の懐柔に定評があり、やんちゃぐらいがいいと言うのを地で言っている。
逆に口ではそう言っても、木原厩舎はどちらかと言うと大人しい馬を好む傾向にある。

お陰様で碧も気性難の馬との付き合いは得意としてるが、こうやって木原厩舎に手伝いに来ると馬が素直で楽だと思ってしまう。
その上、黒崎厩舎にも通ずる暖かさがあって居心地が良い。

追い切りを終えた碧に、木原の妻の美智子が温かいお茶を差し出す。

「いつもありがとね」
「いえ、わざわざすいません」
「今年最後の大一番はライバルになっちゃうのがつらいわね」
「お互いに頑張りましょう、ってことですよ」

木原厩舎もなでしこウィンターカップにラストシンフォニーという3歳牝馬を送り込む。
碧も2戦騎乗経験があり、素質を感じている。

鞍上は松戸慎吾。彼は前岡剛典とリーディング3位の座を争っている腕達者だ。
前岡と違って碧にも気さくに接してくれる。谷口が父親なら、こちらは兄貴分、だろうか。

豪放磊落な性格で酒好き。
碧も成人して幾度か飲みに連れていかれて酷い目にあった。
だが、どこか憎めないタイプだし、意外と紳士的でもある。
だが、一度レースとなると正反対に緻密な戦術を使いこなす。
普段きっちりとしている前岡とより緻密さに驚かされる事もあった。
いやむしろ前岡の方が思い切りがいいぐらいだ。

そして彼の異名は牝馬の松戸。
何故か牝馬なら人気薄でも勝利するなど、牝馬戦に無類の強さを誇っていた。
なでしこウインターカップを5勝し、特に去年は参戦した中央馬も撃ち破ってみせた名手だ。
恐らく彼とラストシンフォニーが地元の一番人気となるだろう。

「知ってる?、中央から参戦のパープルリーフのヤネは澤木騎手に決まったみたいね」
「あっ、忍さんの弟さんですね」

ヤネ・・・
つまり騎乗する騎手が忍の弟に決まったらしい。
今回は交流競争だから各地からの遠征馬を迎える立場だ。
そして忍も参戦予定だから、姉弟対決と言う事になる。

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