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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 19

同じく凄すぎてテレビの前で笑うしかない碧が見てると、やがてインタビューが始まる。

「ジャパンカップ制覇おめでとうございます!」
「ありがとうございます」

爽やかでクールな諸澄巧。
その表情からはこの勝利がさも当然だったかのような普段通りの顔に見えた。

「いきなりの出遅れでびっくりしました」
「そうですね、ここ数走行くのを嫌がる様子でしたので、先生と相談してゆっくりスタートしようと」

淀みなく答える諸澄の様子から、やはりあれは作戦だったと物語っていた。
あれを咄嗟にやって隠してたとしたら、本当にとんでもなくてお手上げだが。

「道中は最後尾でした」
「はい、先生の指示より後ろでしたが、彼はその方が走りやすそうなので結果的に正解でした」

受け答えは淡々としていて、まるでベテランのように見えてしまう。
三年にして中央競馬の騎手の頂点に立ち、25歳にして向かう所敵無し。
それが諸澄巧と言う男だった。
ジョッキーらしい小さな身体なのに大きく見える。

「最後は凄い脚でした」
「そうですね、調教でもこの脚は使えてるので府中なら十分届くと思ってました」

届く自信があったから、あえての大外だったのだろう。
もう、碧には凄いとしか言いようが無い。

「やっぱり・・・騎乗技術が違うのかなぁ・・・」
「でもお姉ちゃんは、碧ちゃんの乗り方しっかりしてきたって言ってたわよ・・・男の人みたいに追えてるって」

気落ちしながら言う碧に亜沙美がフォローする。
追いの弱さはデビュー当時の碧の弱点であったが、亜沙美が言う通りそれは解消している。
長身でパワーのあった元騎手の真奈美が認めるぐらいには成長していたが、一流の中に交じってしまうとまだまだだと言えるかもしれない。

さっきの諸澄の怒涛の追い上げは、追うパワーもそうだがタイミングや鞭の入れ方や間を取る呼吸等、碧が脱帽するぐらいハイレベルなのだ。
同じレースに出て分かったが、碧の騎乗技術は諸澄には及んでいない。

だが、彼女は他より優れた能力もある。
それは馬との一体感だ。

どんなに気性の荒い馬でも彼女が乗るとおとなしくなり、レースではきちんと折り合いがつく。
幼いころから牧場で馬の世話をしてきた賜物であろう。

諸澄もそれに近いモノはもっているが、一部では碧が彼を上回れる、と期待する声もある。

「どうなんだろうな…中山コースは府中よりトリッキーだし」
「センスあるから大丈夫だと思うよ。センスオブワンダー…ジェイエクスプレスのお父さんの仔、中山との相性もいいしさ」
「そうだけど…」

「レッドゴッドファームの岡山さんは絶賛してたらしいよ。ジェイエクスプレスはイギリスダービーも狙える逸材だって」
「う、うん…あの人はねぇ…」

碧は言葉を濁す。
御台グループと覇を競う静内の大牧場にしてオーナーブリーダーであるレッドゴッドグループ。
その総帥、岡山繁俊は彼女はよく知っている。
何故なら、レッドゴッドファームと碧の実家の北川牧場は隣同士。
訪問者が間違えて訪れる事もしばしばある近さだ。
その上、昔から『岡山のおじさん』と呼ぶぐらいの付き合いがあったし、岡山から挨拶代わりに息子の嫁にこいと言われたりしたぐらいだ。
そして、岡山の押しの強さは、碧はかなり苦手だ。

岡山自信も地方競馬でもオーナーであり、地方競馬向きの馬も生産している。
いや、むしろマイナー血統の安価な馬でどこまで走るかを試してる向きもある競馬界の変人だった。
そして多少は競走馬の販売もしていたりして、ジェイエクスプレスやジェイカーマインはレッドゴッドファーム生産馬だ。

何でここまでの素質馬を売るのか謎だが、碧は理解している。
要は素質馬でも血統的に気に食わないのだろう。
要は変人で、そんな岡山が碧は苦手だった。

まあ変人で、苦手な存在ではあるものの馬を見る目は確かで競馬への情熱は人一倍ある男だ。
そんな岡山も評価しているジェイエクスプレス…さらなる大舞台に、碧はより気持ちを引き締めるのだった。


ジャパンカップから3日後。
碧は樹里の「第3の矢」と称される2歳馬の鞍上を託された。
その日のメインレース「潮風ジュニアカップ」(ダート1400m)に出走するジェイアルトゥーベ。

父は欧州の快速スプリンター、カイザースプリングス。
400s前後という牡馬にしては小柄過ぎる馬体ながらデビュー3戦で圧巻のパフォーマンスを見せてきた。
その名前はアメリカメジャーリーグで「小さな巨人」と呼ばれる選手から名付けられたそうだ。

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