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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 12

一番人気は、三冠馬を父にG1勝ちの母を持つ日本一の大牧場が送り出した黒鹿毛の超良血馬、ヴィングトール。
雷神の名を持つこの馬は、2戦2勝。
圧倒的なまでのレース内容で勝ち上がり、来年のクラシック候補・・・
いや、父と同じく三冠馬となる馬とこの時点で言われるぐらいであった。
手綱を握るのは、中央競馬の誇る若き天才、諸澄巧。
デビュー僅か三年でリーディングジョッキーとなった、まさしく天才ジョッキーである。
更に管理する調教師は、毎年G1馬を送り出し、海外にまで遠征する名調教師、糸居新太郎。
まさに一流が終結した陣容に、2歳のクラシック有力馬はこぞって朝日杯に向かったぐらいであった。

とは言え、こちらに向かった他の陣営もこの良血馬を喰ってやろうと言う野心を持つだけに、それなりのレベルの馬は参戦している。
しかし、圧倒的な一番人気は戦前の予想ではこの馬が不動であったのだ。


碧もパドックで初めてヴィングトールを見たが、大きさに圧倒されそうだった。
馬体重的にはジェイエクスプレスとそう変わらない。
だが、存在感と言うか威圧感と言うか、馬が大きく見えるのだ。

ヴィングトール受ける印象は、まさしく雷の神だった。

パドックで美波が曳いて回るジェイエクスプレスの方はぼんやりと歩いてるように見える。
いつもと違う大きな熱気も、ヴィングトールの存在感や威圧感も何処吹く風と言った足取り。
東京に入ってからの調教も順調で、このぼんやりと見える足取りも逆にいい落ち着きに感じた。

府中の千八展開要らず・・・
東京競馬場の1800mはそう言われる力勝負の場だ。
単純に力の強いものが勝つと言う、一流同士の勝負の場だ。
ヴィングトールのレースは中段からスタートして直線で押しきると言う戦術で勝ち上がってきている。
その豪脚は三冠を制した父譲りと言われる強力なものだ。
展開的にはジェイエクスプレスはややその後ろに位置すると思われるが、末脚勝負で届くかどうかは碧も分からなかった。

何せ、ジェイエクスプレスをターフで走らせるのは初めてなのだ。
適正は芝であるが、初めてでどこまで走れるかは未知数。
碧共々、ぶっつけ本番なのだ。

碧にとって中央のレースは初めて。
さらに言うと紗英にとっても中央参戦は調教師になってからは初めてのことである。
普段のレースではあり得ないような緊張感があり、碧にリラックスして、と送り出す声すらも震えてしまう。

13頭立てでジェイエクスプレスは4番人気。
馬券を購入するファンとしては地方からの参戦馬への未知の魅力と不安が入り混じっていることだろう。

もう1頭の地方馬、北の剛腕が騎乗するダイリキセブンも6番人気と期待込み。
ジェイエクスプレスに負けた後、次のトライアルレースで圧勝し、出走権を獲得。
パドックでも相変わらず発汗はあるが、肌の艶やかさは調子の良さを物語っていた。

そして号令がかかりジョッキーが騎乗していく。
もっさり歩いていたジェイエクスプレスは、碧を乗せると首を持ち上げる。
栗毛の美しい馬体が燃えるような輝きを見せ、歩様までキビキビとしたものになる。

「あの馬、いいじゃねえか」

呟いたのは中央屈指の名調教師、糸居だった。
彼の目はジェイエクスプレスを捕らえ、興味深そうに笑う。

「先生とこの馬、やっぱいいですね」
「いいって言ってもね、競馬に絶対なんてないぜ」

関係者と話す糸居調教師は、笑みを絶やさず口の中で呟く。
『だがな、雷神に絶対はあるぜ』


騎乗した碧は、少し離れた所のヴィングトールを見る。
騎手が乗ってグッと引き締まった感がある。
雰囲気だけで他の馬を飲み込んでしまいそうなぐらいだった。

その上に鞍上は若き天才、師岡だ。
人馬共に嫌になるぐらい全く隙が無い。
他の中央のジョッキーも雰囲気に飲まれてる者が大半だった。
中には一発かましてやろうと狙ってる連中もいる。
中央の晴れ舞台なんて何処吹く風と言った感じの兼山には碧も地方ジョッキーの連帯感を感じれて何か安心するものがある。
紗英からは『思いきって行きなさい』と全権を任されている。
もうここは相手云々ではなく、自分のレースをしていくしかないだろう。
それで負けたらごめんなさいだ。

そしていよいよ、パドックから地下馬道を通って本馬場へ。
美波がジェイエクスプレスを曳きながら碧に言う。

「この子、本当に図太いわ・・・あたしの方が緊張してるのにね」
「あ、私も緊張してますよ」
「嘘おっしゃい、碧の顔もこの子と同じじゃない!」
「やだー、私っ馬面じゃないー!」

そんな会話でリラックスできる。
こう言う気遣いが美波の有難い所だった。

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