先祖がえり 7
「!!」
大好きな留美に諌められハッとする狐太郎。丁度その時
「ほう・・・やはり狐太郎が『真の者』であったか・・・」
「あ!おじいちゃん!」
突然現れた源之助。そのまま彼は話を続ける。
「いいか狐太郎。よーくお聞き。その姿こそが狐太郎が真の者たる証なんじゃ・・・」
「ふぇ?どういうこと?」
「それはな、我が木崎家のご先祖様の話をしなければならん。」
「・・・ご先祖様?」
「そうじゃ。我が木崎家の先祖は人狐、つまり人と狐の混血だったのじゃ。しかし時が進むにつれて狐の血が薄れていった。今では数代に一人しか人狐としての姿とならん・・・」
「・・・人狐・・・? つまり『真の者』って・・・」
「そう。人狐の血が覚醒したもののことじゃ。丁度お前のようにの・・・」
自分の先祖の話を聞いてもどうにも信じられない狐太郎。そしてなにより不安に思っているのは「自分が人ならず者として覚醒した」ということであった。
そうした不安に押しつぶされ自然と涙がこぼれてくる狐太郎。
それに慌てたのは留美と加奈。特に彼を溺愛している留美は気が気ではなかった。
「ど、どどどうしたの?!コタちゃん!!大丈夫だから!おいで!」
さっきまで落ちついていた狐太郎がいきなり泣き出して慌てた様子の留美は狐太郎を安心させるために抱き上げて狐太郎の大好きな大きな胸へと顔を持っていく。
「うぅ・・・ひっく・・・ぐす・・・だ、だってぇ・・・」
「どうしたの?さぁ、話してごらん?」
「だって・・・僕が人間じゃないって・・・僕・・・お姉ちゃんに嫌われちゃう・・・ぐす」
「な、なに言ってるの?!コタちゃん!私がコタちゃんのこと嫌うわけないでしょ?!」
「そ、そうです!私だって狐太郎様のことを愛しております!」
自分が予想していた以上のことを言った狐太郎に慌てて返事をする二人。
「ぐしゅ・・・ほ、ほんとぉ??」
まるで捨てられた子犬の様に(と言っても狐の耳と尻尾をしているが)二人を見上げる狐太郎。その耳は不安を表しているのかパタンと折れており、ふさふさの尻尾も丸まっている。
「本当よ!だから・・・だから私に嫌われるとかそんなこと言わないで!コタちゃん!」
「私も、私も狐太郎様のこと心から愛しております!絶対に嫌いになどなりませんから、どうかご安心なさってください!」
「・・・うん。ありがとう。僕、二人に嫌われちゃったら、もう・・・」
今までの自分の生活を思い出しているのだろう、寂しそうな顔をする狐太郎。
そんな記憶を無くそうとするかの勢いで強く狐太郎のことを抱きしめる留美。加奈も愛する狐太郎のことを心配そうに見つめている。
「コタちゃん・・・何があってもお姉ちゃんはコタちゃんのそばに居るからね・・・」
「・・・うん。」
と、そこへ
「・・・どうやら落ちついたようじゃな。話を続けていいか?」
今まで押し黙っていた源之助が口を開く。
「・・・う、うん。おじいちゃん、ごめんなさい・・・」
「いやいや、謝ることは無い。お前だって心配だったのだろうからな。」
源之助に謝った狐太郎は留美に抱きかかえられた状況から、自らの足で立つためもぞもぞと動き出した。
「ああ、そのままでいいぞ。そのまま留美に抱きしめて貰え。といっても立ちっぱなしは辛いから、そこに座ろうかの」
と言って近くのソファーに座る源之助。狐太郎は留美に抱きかかえられたまま源之助の向かいのソファーに移動して、前日と同じように留美の膝の上に座ってその大きな胸に顔をうずめながら話を聞くことになった。
加奈は部屋の隅に立っている。
「さて・・・どこまで話したかな」
「僕が『真の者』だって・・・」
「おお、そうじゃ。 それでな、狐太郎。お前が覚醒した今、お前にはこの木崎コンツェルンを率いてもらわねばならん。なぁに、昨日も言った通りすぐにとは言わん。ゆっくりとその実力をつけていって貰ったらええ。」
「・・・僕に、出来るかな・・・」
またも不安になる狐太郎。耳もピコピコ震えている。
「大丈夫じゃ。お前には留美や加奈もずっとついておる。安心せえ。」
「・・・うん。わかった。」
周りに手伝ってくれる人がいるなら・・・狐太郎はなんとか納得した。
「コタちゃん、偉いわ。安心してね。お姉ちゃんがついてるからね。」
そういって狐太郎の頭を撫で出す留美。しかし
「ひゃぁう!お姉ちゃぁん!」
急に大きな反応をする狐太郎
「ど、どうしたの?!」
慌てる留美。何か自分は狐太郎にしたのだろうか。
「み、耳・・・」
「耳?」
「耳はぁ〜・・・はひゅう!」
どうやら頭を撫でた際そのふさふさの毛で覆われた狐の耳に触れてしまったのだろう。
現在、人間の耳と狐の耳、両方の耳を持つ狐太郎。一体どういうことになっているのかは分からないが、とにかく狐の耳は触れられるとさっきのような反応を示すらしい。
「あ!ご、ごめんなさい!コタちゃん!」
やっと狐太郎が言わんとすることを理解した留美。慌てて頭から手を離す。
「あっ・・・ううん、いきなりで驚いただけだから。」
頭を撫でられるのが好きな狐太郎は、留美の手が離れていく際思わず「あっ」と声を漏らした。
「そう・・・なら良いわ・・・」
安心する留美。今度は耳に触れないように気をつけながら狐太郎を抱きしめる。
「ふむ・・・話すことはもうないかな・・・あ、そうじゃ。」
二人の様子を見ながら声をあげる源之助。
「なぁに?おじいちゃん。」
「うむ。狐太郎の『学校』じゃが・・・」
「!!!!」
『学校』という言葉を聞いた瞬間おびえた顔になる狐太郎。嫌な記憶を思い出しているのだろう。