先祖がえり 2
「ありがとうございます!では、こちらへ・・・」
狐太郎を案内する彼女。
「外に車を停めてありますので。」
それを聞くと彼女と共に車を目指す狐太郎。なるほど、彼の家の前に車が止まっている。
「それで・・・どこに向かうんですか?」
気弱な彼は自分が知らないところに連れていかれているこの状況に早くも不安で泣きそうである。
「それは行けば分かります。決して怖い場所ではないのでご安心なさってください。それより・・・」
「・・・なんですか? 加奈さん」
いまだ狐太郎の求める答えを言わない彼女にさらに不安になりながらも、彼女の話題に返事をする。
「どうか私のことはそのように他人行儀に扱わないでください。あと・・・」
「・・・?」
「・・・私のことは「加奈」と呼んでください・・・」
「えっ?」
「・・・お願いします。」
またも懇願するような目で見つめてくる彼女。その顔はどこか上気している。
「えぇっと・・・分かりました。加奈さん。」
「・・・・・お願いします。」
もう一度お願いする彼女。そこでやっと彼は自分の間違いに気付いた。
「ああ、えっと・・・分かったよ、加奈。」
「・・!! ハイッ!!」
またも花が咲くような笑顔。よっぽど嬉しかったのだろうか、こちらまで心が温かくなる優しい笑顔だ。
「それで・・・」
「お待たせいたしました、狐太郎様。到着いたしました。」
運転席から目的地に着いたことを伝える加奈。思いの外近かったのだろうか。
先に運転席から降りた加奈は後部座席に座っている狐太郎を車から降ろすために扉を開けて待つ。
「あ、ありがとう・・・」
人に優しくされる経験を久しくしていなかった彼は何と返事をしたらいいのか分からず、戸惑いながらも感謝の言葉を述べるだけであった。
そうして車から降りた彼。
しかしその景色はどこか見覚えのある景色であった。
というよりもこのあたりに住んでいる人ならば誰でも知っているであろう場所に彼は降り立っていた。
「木崎コンツェルン」
大きく書かれたそこは、まさに彼が小さい頃に過ごしていた父親の実家のほど近くにある国際的大企業のそれであった。
「えっと・・・なぜここに・・・?」
彼の疑問ももっともである。なぜ自分がここに来る必要があったのであろうか。
しかし彼の問いに帰ってきた答えは
「行きましょう。狐太郎様。」
という加奈の優しげな瞳と共にかけられた言葉であった。
やはりその場所は彼が何度も訪れた場所であった。というよりむしろ彼は幼少期のほとんどをここで過ごしたと言っても過言ではない。
もっとも彼が居た場所はここ木崎コンツェルン本社ビルの中でも限られた人間しか入れない空間であったが。
懐かしい記憶を辿りながら加奈について行く狐太郎。
ついに彼はどうやら目的地である扉の前に到着した。
「・・・さぁ、狐太郎様・・・」
扉を開けることを勧める加奈。
「・・・失礼します・・・」
この先に何が待ち受けているのか分からず、不安ながらも扉に手をかける。
しかし、扉が開いた瞬間彼が見たものは
「コタちゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!」
という声と共に自分にものすごい勢いで抱きついてくる女性であった。
「うぅ〜ん!!コタちゃん、コタちゃん!コタちゃ〜〜〜〜ん!!!」
自分のことをきつくきつく抱きしめてくる女性に戸惑う狐太郎。さらに、
「む〜〜〜〜〜!!! むぅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
(息が!息が出来ない!!)
狐太郎はいきなり来た女性に抱きつかれ、窒息寸前であった。
それもそのはず彼の頭を覆っているのは一面の肌色であった。
との女性はとてつもない爆乳の持ち主であったのである。
その肌は触れるとズブズブと埋め込まれていくほど柔らかいが、ピチピチとした張りがあり、モチモチとした感覚もあった。
まさに極上の乳であったが、今の彼にとったら自らの命をも奪いかねない恐ろしいものである。
(もう・・・むりぃ・・・)
力の抜けていく狐太郎。しかし抱きしめていた女性はそのことに気がついたのか
「あ!!!コタちゃん!! 大丈夫?!しっかりしてぇ〜!!」
と彼を解放し、心配そうな目で彼を見つめる。
「はぁっ!はぁっ!・・・危なかったぁ〜・・・」
ようやく一息ついた狐太郎。ふと自分に抱きついてきた女性を見上げると
「うぅ〜・・・ごめんねぇ?コタちゃぁ〜ん・・・」
今にも泣き出しそうなウルウルとした瞳で彼のことを見つめる女性が居た。
「・・・あの〜・・・」
戸惑う狐太郎。それもそのはず
「・・・コタちゃん、私のこと・・・覚えてる?」
「・・・・・・・・」
「そ、そんな・・・」
彼は彼女のことを覚え出せずにいた。いや、確実に知っている顔なのではあるが、それが誰かが一致しない。
「・・・あの〜・・・」
何と返事をしていいものか。戸惑う彼だが
(待てよ・・・抱きつかれたこの感覚、それに僕のことを「コタちゃん」って呼ぶ人って言えば・・・!)
彼の頭の中で何かが繋がった。
「もしかして・・・留美お姉ちゃん?!」