そんな姉に彼は呆れた表情と口調で答えた。
「「・・・」」
途端に静かになる二人。話す話題も無くなり自然と窓の景色に目が行く中。
「きゃっ」
「うおっ。？！！」
「んっ。　か、かー君・・・」
車内が大きく揺れる。その揺れでバランスを崩した小春は刈谷にもたれ掛かるように抱きついてきた。
そんな彼女を受け止めた彼だが、直後“ある事”に気づき唖然とした。
今、季節は夏真っ盛り。当然、学生服は夏物を着用している。
白の半そでシャツに襟には紺のラインがあり、下は紺のスカート。やはり今時の女子高生なのでもちろんミニだ。
そんな格好でましてやスタイルが抜群な小春が身に着けていれば。
「(む、胸がぁぁぁああっ！！　やばいっ！やばいぞ、この状況！　しかも、見えてる)」
そう、少し目を落とせば。首元の隙間から見える瑞々しい肌に豊満で深い谷間。そこに流れ落ちる汗にちょっぴり見えるピンクの布。
思春期真っ只中の高校生にとってはこれは歓喜するほどのモノなのだが、相手は姉では話は違う。
(落ち着け、冷静になるんだ俺っ！　姉で欲情なんてしたら色々と終わってしまう！　だから落ち着け、我が息子よ-ーーーー！！)
そう自分に言い聞かせる刈谷。しかし此処は満員バスのギュウギュウ詰めになった車内。
よって。
「んっ、あ、んんっ。　はぁ・・・」
「！！？(色っぽい声を上げるな！　体重をこっちに預けるな！　胸が・・・胸の感触がぁぁぁぁ！)」
色っぽい吐息が彼の耳を打ち、女性特有の甘い香りが鼻をつき、その柔らかな感触が彼の体いっぱいに広がる。
この光景を見た第三者なら嫉妬や殺意を思えるだろうが、当の被害者、芦部刈谷にとってこれは究極の生殺しに等しい物であった。

「とうちゃ〜くっ♪」
「・・・」
あの生殺しから一体どれほどの時間が経ったのか、何時もなら十数分のバス通学が今の刈谷には数時間の長旅に感じたことだろう。
現にバスから降りて陽気にはしゃぐ小春に対して何のリアクションも取らない所を見ると、相当に堪えたようだ。

そんな二人の目の前に威風堂々と建っているのが彼らが通う私立雅門学園である。
白いコンクリート造りの壁は、真夏の太陽の光を受けて目に眩しい。学園へと続くコンクリートの階段を大勢の生徒が談笑しながら上っている。
「ほらほら、かー君置いてくよー♪」
「あっ、おい待てアホ姉っ！　また迷子になる気か！！？」
そんな階段の半ばあたりで元気良く手を振る小春の姿を見つけた瞬間、刈谷は先ほどまでの煩悩を頭の片隅へと追いやった。
そして、そんな姉に向かって大声を上げながら走る彼を周りの生徒は、「またか」と言わんばかりの表情でスルーしていく。

「あぁ〜・・・疲れた・・・」
「なぁ〜にが疲れた、よ。　朝っぱらからバカップルぶり見せ付けちゃってさ」
とある教室、其処で自分の机に体を預けながらため息を吐く刈谷に声を掛ける一人の女子生徒。
ライトブラウンの長髪をポニーテイルにした青い瞳を持った美少女で、名は水野　皐（みずの　さつき）と言う。
整った小顔に色白の肌、制服の上からでも分かるほどのキュッとしたウエストに、細くて長い手足は女子生徒にとっては憧れのモノだろう。
しかし、それらのモノより目が行ってしまう場所がある。それは彼女が持つ胸だ。
大玉スイカを思わせるほどの爆乳で、制服からでもハッキリと分かるその綺麗な円錐型をしている。

「バカップルって・・・お前なぁ・・・」
「バカップルじゃない。　あんたと小春さんて、確か義理の姉弟なんでしょ？」
彼女の言葉に呆れた口調で返そうとしたが、皐に一蹴されてしまう。
「いくら義理でもアレはないわよ。　毎日毎日、アレじゃあバカップルって言われても仕方ないじゃない」
さらにダメ押しとして言われた事に、刈谷は反論する事が出来なかった。

芦部刈谷と芦部小春、姓は一緒だが二人に血のつながりは無い。幼少の時、親を亡くした刈谷を小春の両親が引き取ったのが事の切っ掛けだ。
それからと言うもの、小春はすっかり刈谷にゾッコンになり、刈谷も何だかんだと言いながら小春にゾッコンになった所謂似たもの同士。
それ故、学生アパートも一緒の部屋について小春の両親は、
「刈谷君ならオッケー！」
と、清々しい笑みで同棲を了承。コレを聞いた小春の喜びようは、言わずとも分かるだろう。

その様な過程を知らなくとも、日ごろの生活を見ていれば彼らを「バカップル」呼ばわりするのは当然の結果なのである。

「くそぉ・・・反撃できねぇ・・・」
「ふふんッ、腐れ縁は伊達じゃないのよ」
悔しげな声で机につっぷす彼に、楓は「どうだ」と言わんばかりの笑みで胸を張る。