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数人の男子が何か言いながら制止しようとするが武はそれを振り払う。
「ダッチワイフのマ○ア様。毛付き穴付き薫り付き。これは息子も大はしゃぎ。三擦り半でど・ぴ・ぴ。
大人の(中略)チャチャチャ大人のオ・モ・チャ!」
「やめんか〜!」
「不特定多数を敵に回す気か!?せめてメリーさんかメアリーにすべきだぞ!?」
「いや、論点ずれてんぞ」
まだ誰も片す気配は無かった。
「電動ゴケシのザビ○ル君。カリ付き・エラ付き・バイブ着き。これに娘は大はしゃぎ。アルカリ、リチウム、ハイパワァ。
大人の(中略)オモチャ、チャチャチャ大人のオ
モ
チャ!!」
武は歌いきるが誰も机の上を片そうとしなかった。
「…フ」
武はペンケースを机に放り込むとミニチュア祭壇を教卓の上へ移動させ、黒板にチョークでデカデカと「発毛祈願」と書いた。
これに男子は顔を青くした。
武は机に鞄をかけるとトイレに行き、戻ってくると教卓も黒板もきれいになっていた。
このクラスの担任は温厚ではあるが自分の髪の毛を『とてもとても、略してトテトテ』気にしているのであった。
以前、男子がお前の存在感は担任の髪より薄いって言ったところ、ちょうどその担任が近くにいた。
気まずい空気が漂ったが、担任は豪快に笑って「俺の髪とお前の存在感で勝負だ!」と言い放った。
しかし、それから一週間はその保たれた笑顔が痛々しかったことがあった。
それ以来、クラスの皆は担任の髪の毛は地雷原として触れないようにした。
そして武はあえてその地雷原に足を踏み込み、クラスメイトの願望を退けたのであった。
お昼休み
武は購買部に昼食を買いに向かった。
向かう先の廊下では2年生の棚井賢治(たないけんじ)がiPODで音楽を聴いて人差し指を振ってリズムを取っていた。
その姿は「俺ってカッコイイ〜」そのものであった。
はっきり言って傍から見たらウマシカであった。
棚井はバイトで稼いだ金を目新しい物を買うのにつぎ込んでいた。
携帯電話は4つ持っていて、各会社が新しいのを出せば真っ先に機種変更して他者に自慢していた
「やあ、武タン。面白い音があるんだけど聞かない?」
「目当てのパンが売り切れちゃうんでまた今度聞かせてください」
武は曖昧に断ったが棚井は武の手を掴んで引きとめた。
「まあ、そんなこと言わずに聞きなよ。損しないから」
武は内心舌を打ち、しぶしぶイヤホンを耳にあてた。
棚井の脂が付いててとても嫌な感じであった。