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いずれも武が女らしくなるようにという願望が多く、どれも武の願いを打ち消すことができるような内容ではなかった。
「駄目だ。そんなことでは紫藤君の願いには打ち勝てないぞ。さらに生徒会長は紫藤君の精神的支えになっている。紫藤君の心の隙間は奴に埋められているのが現状だ。もっと何か…そうか」
教壇の黒装束は何か思いつき呟く。
「“紫藤君が下ネタを使わなくなりますように”だ!」
教壇の黒装束は拳を握りしめて言い放った。
「それこそ無理があるのでは!?」
席に着いている一人が異を唱えた。
「君達は紫藤君が好きで下ネタをふりまいてると思っているようだが、それは違うぞ。
彼は女の子として接せられるのが嫌だから下ネタでバリアーを張っているのだ」
室内に「おぉ〜」と感嘆の声が溢れた。
「そうか、そうしてバリアーをなくしてしまえば!」
「うむ、紫藤の願いの力が弱くなるかもしれない!」
「では、早速明日から…!」
「落ち着け諸君!」
はやる気持ちを口にする席の黒装束に教壇の黒装束は待ったをかけた。
「それは軽率だぞ。その願いをみんなに伝えてみろ。当然紫藤君の耳にも入る。
そうしたら紫藤君は新たなバリアーを張ることになるだろう」
「だったらどうすれば…!」
一人がいら立った声を上げた。
「みんなに紫藤君は本当は下ネタが嫌い、もしくは苦手だと広めればいい」
「それで?」
「そうすればみんなの中で嫌なことをして男を守ろうとする紫藤君に嫌なことをさせたくないという気持ちが芽生えるのではないのでは?」
「そう言うもんか?」
「それに近いことを広めればいい。男であるために下ネタで身を固めているのは確かなのだから」
教壇の黒装束はそう結論づけた。
「では、次の議題に行こうか?」
「いや、時間も時間だ。それは次の機会にしよう」
「そうか。せっかく色々用意したのに…」
提案をした男はがっくりと肩を落とした。
「君の力作、期待してるぞ。では本日はこれにて…散れ!!」
教壇の男は「解散」ではなく「散れ」と叫んだ。
ガラり
視聴覚室の扉が開き、見回りの当直教師が室内に懐中電灯の明かりを走らせた。
暗幕が閉じていることに「おかしいな」と呟くと特に異常を見つけられず扉を閉じた。
視聴覚室からはすでに黒装束の男達は消え去り、学校敷地内から抜け出していた。