「下りるってまだ……」
「ー審議中だが担当者が言うには大方下りる、加害者も危険運転やら色々と罪状が付くしな……あ〜楠瀬の方に消火器送ってやらんといけないか……ん？ー」
「社長、すみません」
「ー無事なら謝る事は無いさ、荷物の事は段取りをつけた。何ならみっちゃんと例の場所で抱いてこい、予約はして代金は振り込んでいるぞー」
「しゃちょうぉ！！！」
Ｌトークの通話がオフになり、スピーカーにしていた事を忘れていた。未希はジーと子供がモノを欲しがる眼になる。
「はぁ〜」


迅が住むガレージ型賃貸から一時間、温泉街とは名ばかりの“風俗街”に居た。バブル期の開発失敗で何件かは旅館が廃業したのをきっかけに風俗街になりつつある。
これも昔の栄光に縋りついた故に……とは言え温泉街全体が風俗街ではない、交通アクセスが良好な場所にあるエリアは戦後に創業した旅館やホテルで家族や純真に温泉を楽しみたい客層向け。それに対して交通アクセスが悪い場所に旅館やホテルは戦前からあり“奥座敷”と呼ばれるだけに自動車で山奥に入る必要がある……逆に言えば人目が付かないので少々の無茶が効く、即ち“女体盛”やら“ご乱交”やらだ。時代が進むとこの様な悪しき因習を嫌った者らが出て観光開発にしたが……史跡も有名人の出身地と言う観光資源がないのなら失敗は眼に見えていた。
「はい、予約されている瀬川様に一ノ瀬様。どうぞ」
「世話になるよ」
入口にて係員にスマホを見せるとゲートが開く、奥座敷はある一族が仕切っており同業者も黙認している……源泉の管理を初めとする温泉街の必要な施設の維持の為、一族も表の同業者らには家族や純粋に温泉を楽しみたい客層を相手にして貰う為に仲良くしている。迅が働いている運送会社社長は一族の一人であるので顔が利くのだ。
普通なら地元の名士から仲介が必要である。迅の自動車が駐車場に停車する、駐車場には高級外車が並んでいる……訳でもなく敢えて国産車ばかり、迅もその点では助かっている。周囲に溶け込む為に。
「迅〜〜」
「はいはい」
愛用の首輪を未希に装着させる、サマーワンピースの隙間からブラを抜き取りヒモパンも脱がした。
「濡れているなぁ」
「だって、ここ敷地内なら露出ＯＫなんでしょ？」
未希は変性症と異常性欲症であり学生時代は先輩と校内でヤッていたとも言う。チェックインはスマホで済ませており三泊四日の予定である。迅の年休消化も兼ねているが今朝の事故はワイドショーが飛びつき昼間になると取材の申し出が絶えない。事故の概要は報道でのコメントしているのだが……加害者本人は確かに全面非を認めているが仕事仲間が騒いでいるのである。最も絶賛炎上中で動画投降サイドのパイオニアでもある“ＭＹＴＵＢＥ”の日本法人もアカウント凍結、まあ勤め先のチャンネルにも攻撃したのが速攻でバレたぽい。
「牧、済まないな運転させて」
迅は既に酒を飲んでいたが社長は奥座敷で働いている若手に運転断代行させた、地理上駅前への買い出しには自動車は必須なのである。
「いえ助かりましたよ、乗って来た軽トラを勝手に使われてしまって奥座敷に戻るのに面倒になるなぁと。一ノ瀬さんもお変わりなく」
「……」
「昔の事は気にしないでください、あの騒動で球団ドラフト指名受けても辞退する事は決めてましたから」
運転席に居る男は苦笑する、将来プロ野球界入りするのが確実視された自分を含め野球部に所属する男子生徒が変性症ウィルスにより感染し女性にならない様にするために未希が高校への通学を阻止してしまったのだ。これも発覚した事で騒動が収拾不可になり野球部は休部、事実上の廃部である……牧　健二も大学には一浪して入学し卒業後は地元に戻り“奥座敷”の従業員として働いている。
「後で顔を出します」
健二は何処か他人行儀になっているのも分かる、未希を通学させておけばこんな事をしなくってもよかったのだ。
彼女もギスギスしている故郷よりも東京郊外で過ごすつもりであったが父親の心労が予想以上に酷いので実家の近くに過ごす事を決意し仕事量を鑑みて故郷に戻る事にした。作品がデータでやり取りできるようになり、アシを雇わず作品を仕上げられるのも大きい、そして引っこしの際に中学時代を知っている迅と再会……程なくして双方の両親公認の同棲になったのだ。
「瀬川様、一ノ瀬様……ようこそ奥座敷へ」
「お世話になるよ、若女将……急に申し訳ない、社長が一度言い出したらな」
妙齢であるが何処か親しみやすく、着物を着こなしているのが奥座敷の看板でもある若女将だ。
「滅相も、瀬川様も今朝は災難でしたね」
「報道の通りさ、それなのにワイドショーの連中が来てな……この分なら楠瀬社長も大変だろうよ」
「その様ですね」
今の時刻はお昼を過ぎているが余程話題が無かったのか有名動画配信者が起こした高級外車スポーツカー激突事故はワイドショーで報道されている。