誘拐された彩花に続いて愛香まで…。
何度もレイプされ、全身に傷を負わされ、さらに麻薬中毒にまでされているとは。
あまりの異常事態に皆、霧島たちはただただ驚くばかりである。

百合「ひ、ひどい…。あんまりよっ！！　一体誰がそんな…！！」
霧島「絶対許せない！　犯人は私が捕まえてやる！！」

百合が堪えきれず泣き出した。

夏美「早く愛香に会わせてください！！」
東都「ダメよ。今、集中治療室に入っていて面会謝絶なの。それにまたマスコミに感づかれると大騒ぎになるから警察内部でも現在箝口令が敷かれているわ」
寧々「…課長。うちの課って…誰かに狙われてるんじゃないですか？」
一同「…………………」

沈黙を破って寧々が言った。
彼女もショックを受けているはずだが、表情は変えずにあくまでもクールに言い放った。

（誰か特殊課に恨みを持つ人間がメンバーをつけ狙っている…！！）

その予感は、皆の心の中にずっとくすぶっていたものだった。

東都「その可能性は十分にあるわ。この事件も彩花誘拐事件に引き続き捜査一課が担当する。特殊課メンバーは今日からデスクワークのみでパトロール禁止！　定期的に連絡を取り合い、決して１人では行動しないこと！！　いいわね！！」
一同「…はい…」

メンバーたちは心の中に重い鉛の塊のようなものがずぶずぶと沈んでゆくのを感じていた…。

（神谷だ！！　きっと犯人は神谷に違いない！！）

霧島はそう確信した。
片桐恵美からもらった手がかり、ＳＭクラブ『ブラック・ローズ』への潜入捜査を一刻も早く進めなければならない。
大きな危険が伴うが、事件を担当する捜査一課のやり方が信用できない霧島にとって、彩花を救い出すにはそれしか方法がないのだ。

数日後、都内某所。
ここは一見普通のホテル街だが、ＳＭホテルやＳＭ風俗店が軒を連ねるＳＭのメッカである。
その中のとある高級マンションに１人の女が現れた。
年の頃は２０代後半であろうか？
派手な金髪にサングラス、きついメイクと香水、大きく胸元の開いたＴシャツ、腕に巻かれたスカルリング、ぴちぴちのカットジーンズにロングブーツとビッチなファッションに身を固めている。
その女は、表札のかかっていない９０２号室のブザーを押した。
ブーッ。ブーッ。

受付「…はい、ブラック・ローズです」

そう。ここは会員制ＳＭクラブ『ブラック・ローズ』である。
女はくちゃくちゃとガムを噛みながら口を開いた。

女「ドア開けてくんない？　あたし、客なんだけど」
受付「うちは一見さんお断りですよ。常連さんの紹介がないと駄目です」
女「クラブ友達の恵美が連れてってくれる約束してたんだけど、恵美がサツにパクられちゃってさ…」
受付「…片桐恵美さんのことですか？」
女「そうそう。だから開けて！」

…ガチャリ。
ドアが開いた。中から背の高い男が顔を出す。
フチなしメガネをかけ、きっちりとスーツを着込んだマネージャー風の風貌だ。

受付「片桐さんからの紹介状は持ってますか？」
女「ええ、持ってるわよ」
受付「では確かめさせていただきます…。たしかに片桐さんの筆跡です。中へどうぞ」

中に入ると、そこにはごつい体格の用心棒らしき男が座っていた。
オールバックの金髪、両耳にはごついピアス、レイバンのサングラスをかけている。
男は立ち上がるとうやうやしくお辞儀をした。

用心棒「いらっしゃいませ」
受付「うちはどんなお客様にも秘密厳守で最高級のＭ嬢を提供するクラブでしてね。変な連中に嗅ぎつけられないように用心させてもらってるんですよ」
女「わかるけど…。用心し過ぎじゃない？」
受付「ここに住所と名前、電話番号を書いて下さい。免許証もコピーさせていただきます」

男は記入用紙を取り出すとペンと共に女に渡した。
女はポケットから免許証を取り出して渡すと受け取った紙にさらさらとサインする。
そして会員登録用記入用紙の名前の欄には『久我山レイラ』と書き込んだ。
皆さんも既にお気づきの通り、女の正体はもちろん霧島麻里絵である。
名前も住所も全て偽物、免許証も偽造品だ。
今回の潜入捜査のために偽造書類を作る専門の闇業者に発注した代物だった。

受付「では入会金として、まず１００万円いただきます」
霧島「あら、案外安いのね」

霧島は持っていたバッグの中から無造作に札束を取り出すとカウンターに投げ出した。

受付「女の子の好みはありますか？」
霧島「ドＭの子をお願い。どんな酷いことされても感じちゃうような重度の変態マゾ牝がいいわ」
受付「かしこまりました。女の子を連れてきますので奥のプレイルームでお待ち下さい」

受付の男はそう言うと、霧島をプレイルームへと案内する。