METAL・MAX―新たな軌跡― 7
持ち物をいざというとき出しやすいように整理して綿は潰れて薄茶に染まった布団の脇に置く
「今度はシャワーのある部屋に泊まろ」
トレーダーキャンプは水場のある所に張るのが原則
あまりお風呂を欠かせたことが無いノエルに、お風呂の無い宿泊施設に軽いカルチャーショックを覚えてた
電気を消し、枕の下にCOPを忍ばせ目を閉じた
…
…ぷ…〜ん〜
「しまった!カトールを買い忘れてた!!」
明かりをつけて蚊の姿を探すが見つからない
この夜ノエルは蚊に悩まされ、よく寝付けないまま朝を迎えた
「おのれ〜」
蚊に食われた数カ所をポリポリかきながら道具屋でカトールを買う
(野宿じゃないから油断したわ)
レンタル車を返して高機に乗り込む
限界ギリギリの重量にシャーシーもサスペンションも不気味な呻き声の様なきしみを鳴らし続ける
「装甲タイル少ないのがちょっと不安かも…」
Cユニットを戦闘モードにして走りながら砲頭を回してみる
「ややややや!きゃ〜!!」
バランスを崩しかけ、車体が傾く
慌てて戻すと反対側に傾く
平行に戻そうとハンドルを右に左に回しながら走る様は、左右にビョンビョンと揺れるバネのみたいだ
その滑稽な様子を…通りがかりの90式戦車に乗った…三白眼のガキが鼻で笑っていた。
試射ついでに一発食らわせてやろうかと思ったが…こんな状態でブッ放したらどうなる事か…。
じたんだを踏むしかなかった。
「ちくしょ〜…ガキの分際でぇ…。」
「ああん?」
ボロボロの戦車帽に擦り切れたジャケットといういでたちの悪ガキ…ノエルを冷たく見下ろす瞳には、古兵の風格さえ感じられた。
「ひっ…?」
ノエルは本能的に身をすくませる。
「クルマが…泣いてる。」
ポツリと呟き風と共に去る三白眼…。
「何なのアイツ…!?」
悔しいが…凄腕の風格を持つ同業者(しかも多分年下)に戦車の扱いのマズさを指摘されたのは理解出来た。
そしてこの高機じゃ仕事にならん…という事も。
「砲塔の補正…ブツブツ。」
…がちゃ…がこん…
「よいせっ…と。」
…ごとごと…
「ん?」
ふと気が付けば…モヒカンピアスのにーちゃんがノエルの高機を勝手にいぢくり回し、むちんぷりんなねーちゃんが装甲タイルをひっぺがしている!?
「アンタ達…ナニ?」
ノエル的にはそう聞くしかなかった…。
アタマ湯気なノエルが二人を怒鳴りつけようとすると、モヒカンの方が自信タップリに「乗ってみな」と高機を親指で示す。
妙な説得力に気押されながら…シートに腰を下ろしてみた。
「おりょ?」
さっきまで、ちょっと尻をずらしただけで嫌ぁ〜な軋みを立てていたのが嘘みたいに治まっていた。
「あくまで応急だからよ、無茶すんな?」
「は…はぁ…どうも…。」
モヒカンは『ボウイ』むちぷりが『アモウ』と名乗った。
「ありがとう…でも何で…?」
むちぷりの方が砂丘の向こうを指差した…90式戦車のシルエット…。