METAL・MAX―新たな軌跡― 52
「ハンター組合規定により…エレーナの賞金は『童貞キラーのジャネットさん』の…。」
「あ〜…わかった、もうイイから…。てえか、あのメイド名前あったんだ…ん?童貞キラー?…」
ふとツェットに振り向くノエル。
…だらだら…
ツェット(汗)は目を反らす。
「気を落とさず頑張って下さいね?『先を越されたノエルさん』『お赤飯炊かなきゃツェットさん』!」
…だらだらだらだら…ツェット(滝汗)はフルスイングで目を反らす…。
「ツェット君…詳しい事情は宿で聞こうか…?」
「えうぅ〜?」
安宿梅部屋。
安宿名物な害虫対策に焚かれたカトール(超強力蚊取線香)の煙で極限までドンヨリした部屋…不揃いな軋みを立てる椅子にもたれながら、マルボロマン(銘柄)をくわえ煙草でふん反り返るノエルと…肉食獣に狙われた小動物の様に脅えながら節穴だらけの床に正座するツェット…。
「事情はわかった…君が商売女と遊ぼうが、ロリータたぶらかそうが…文句はないよ…。」
冷めた瞳で見下ろす。
初剥き初絞りの…筆下ろしフルコース摘み食いされて文句大アリだが、ノエルの本当の怒りは別の所にあった…。
「…アイツは敵なのよ…?」
「・・・!」
今までうつ向き加減だったツェットが、やたら反抗的な上目使いでノエルを見据える。
「あの人は…ジャネットさんは変態野郎に利用されて…。」
ノエルはツェットの態度を咎めるでもなく鼻で笑う。
「利用するでしょ、便利ロボなんだし。」
「あの人にだって…人格が…心があるんです!!」
ノエルは深い溜め息をつき、諭す様に続けた。
「メカ屋らしからぬ物言いね…仮にそんなモンがあったとするわよ?だとしてもアイツはベルナルドの所へ帰って行った…ご主人様の元にね。」
「それは…プログラムで…。」
ノエルは、くっくっくっ…と普段のお気楽ぶりとは正反対の陰湿な笑いを漏らす…。
「そーゆーとこは現実的ね…。」
「なんとか…説得すれば…彼女は僕を殺せた筈なのに、そうしなかった!」
「必要なければ殺さない…アイツ自身がそう命令されたって言ってたでしょ?」
ツェットは言い返したかったが…認めざるを得ない事実だ。
ノエルは二本目を点け、ツェットにつきつける。
「ベルナルドをブチ殺して…てのも却下よ。
昔トレーダーに居た頃…似たような事して仕入れたメイドを売りに来た馬鹿がいたの。」
「・・・」
ツェットは沈黙したままだ。
「プログラム初期化ご主人様待ちってね。長老も一時保留でその男とメイドロボを泊めた…。
売り手はその晩…暴走したメイドにベッドでミンチにされて…武器を奪ったメイドがキャンプで大暴れしたわ…。」
「・・・。」
「ご主人様更新しようと思ったら…完全にデータ消去するか、CPUごと載せ換えるしかない…キミの方が詳しいんじゃない?」
ノエルは小馬鹿にした様に紫煙をふっかける。
言う通りだった…そうしようと思えば、戦車一輌オーダーするぐらいの費用がかかる。
そして彼女の記憶が…。