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胸に秘めた思い
官能リレー小説 - 同性愛♀

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胸に秘めた思い 9

「ただいまー」
普段なら明るい廊下が珍しく静かだ。
「お、お邪魔しまーす」
そう消え入りそうな声で言っているみずきを見ていると、今更ながら緊張しているのかな、と思う。
考えてみれば、ノリで言った家への誘いをノリで返したようなものだろう。きっと。
「あがってあがって」
それには気付かないフリをし、意気揚々と台所へ向かう。
玄関から廊下をまっすぐ行けば台所だから楽で良い。
靴を脱ぐのに手間取っているみずきを尻目に台所への扉を開け、そこでジェントルマン風に待ちかまえてみた。
「こちらへどうぞ」
行き先に手を添えて佇むが行き先が台所なのでイマイチかっこつかない。
みずきに含み笑いをされつつ後に続く。
買い物袋をテーブルに置くと、見慣れない紙が視界に入ってきた。
同窓会で遅くなります。母。と太いマジックで書かれたその紙に私の思考は奪われた。
そんな話聞いてない、と思ったけど今朝は落ち込みに落ち込みまくってたから耳に入らなかったか、気を遣って言わなかったのだろうと推測した。
「もしかして、誰もいないの?」
ご名答です。
「うーん…ま、そのうち帰ってくるとは思うけどね?」
父親は今日も残業だろう。最近忙しいとか言っていたし。
「とりあえず作っちゃおう。どうする?部屋で待ってる?」
どのみち居ても料理はするつもりだったし問題はない。と思う。
「せっかくだから見てようかなー。なにか手伝えることある?」
「じゃあそこの鍋にお水入れて沸かしてもらえる?」
これくらいなら料理の腕に左右されないから頼みやすい。
「おっけー」
敬礼をするように手を額に軽く当て、勇んで鍋へと歩み寄るみずき。
何故だろう。鍋でお湯を沸かすだけなのに一抹の不安が胸をよぎる。
とは言え、流石にとんでもない事は起きないだろう。私は買ってきた材料を買い物袋から取り出してテーブルへ並べていくことにした。

順調に進んでいると思われた二人の作業だったが、ぷるぷると震えるみずきから発せられる変な声が順調では無い事を告げる。
「うりゅー!」
なんだその気の抜けるような気合の入れ方は…。
様子を見ると、どうやら鍋に水を入れすぎてシンクからコンロへと移動させられなくて困っているようだ。
優しい私は笑顔でみずきの手伝いをすることにした。
「バカにしてるでしょー!」
内心すごく。
「そ、そんなことひゃいって!」
「完全にバカにしてるぅぅっ!」
笑いを堪えている口元の緩みが発音を阻害するとは迂闊であった…。
みずきに顔を見られないように肩で顔を隠しつつ鍋を持ち上げる。が、簡単には持ち上がらなかった。
「ちょっとだけ水減らすね」
それだけ言い、鍋を傾けていく。
二人で持つという選択肢もあったが、息がぴったりでないと更なる大惨事が起こる可能性に行き着き、笑いを収める時間稼ぎついでにみずきの仕事を奪うことにしたのだ。
コンロに鍋が乗るコツンとした音が響き、流れで火を点ける。
鍋の見張りをみずきに任せ、具材の下拵えに取り掛かることにした。

本当は順序よく炒めていくのが理想なのだけど、面倒なので一気にやってしまうことにする。
ベーコンを一口大に切り、フライパンへ。
にんにくの皮を剥き、芯を抜いて輪切りにしてフライパンへ。
ついでに赤唐辛子も縦に切って種取ってフライパンへ。
そしてたまねぎの皮を剥き水洗いしてから繊切り。
みじん切りにしても良かったが、眼球が液体を分泌し始めたのでたまねぎを蹂躙するのは勘弁してあげた。そしてフライパンへ。
軽くサラダ油をまわしがけしてフライパンに火を入れる。
あまり強くするとにんにくが焦げてしまうので弱火にしておいた。
菜箸で適当にかき混ぜていると、お湯が沸いたようだ。
こっちを見て目を潤ませているみずきはとりあえず放っておいて、鍋にパスタを入れていく。
おおかた、たまねぎの成分で目が痛くなっているのだろう。私の手際に感動している可能性などあるわけがない。
「はやーい」
早漏だと申すかっ!
女だっちゅーにっ!
「なんかこう、男の料理っ! って感じだよねぇー」
「女なのに……」
明らかに不服そうな表情を作って抗議する。
「ごめんごめんっ。そうじゃなくて、格好良くて憧れるってこと!」
悪い気はしないけど、男の子にかわいいと言うくらい微妙じゃないだろうか。

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