スケイルス海での出来事 19
これにはレルツも慌てる。
男達に魅かれるものを感じている事すら言いだせないでいるのに、全裸の男達の前で脱いでくれとは。
これでは神官に自分の中の秘めた物がさらけ出されてしまう…。
いや、神官はうすうす感づいているのかもしれない。
だからこそあえてここに呼ばれた可能性もある。
「お言葉ですが神官…私が脱いだところで、ここの青年たちが悦ぶとは思えませんが…」
神官に意見するなど恐れ多いこととは分かっていながらに、レルツは自分の動揺を気づかれたくはない一心だった…
「うむ…そなたの言うことも最もではあるが、ここミアプラにおいて性的な興奮を促す材料など皆無と言っていい…」
困り果てた表情を、神官はレルツに向けた。
「そ、そお言われましても…」
神官を前にレルツは口籠ってしまう…
「ぼ、僕は構いませんが…」
2人の問答を聞いていた壁に固定された青年が呟くように言った…
「お、俺もです…レルツさんの裸が見れるなんて…どんな媚薬よりか効き目があると思います!」
また別の青年も声を上げてきた。
「おっ、お前ら何をぉ言ってるのか分かっているのかぁ?!」
レルツは顔を赤らめながら言う。
「勿論分かっていますとも…僕たちのモノが勃ち上がらなければ儀式は成立しない…そうなれば神官様はさぞかしお困りになられる…」
「そ、そういうことを言ってるんじゃない…私は男だぞ!」
レルツは平たい胸板を強調させるように胸を張って見せた。
「ははは!、そんな恰好しないでも充分、分かっていますとも…レルツ様は列記とした男…それもとびっきりの美丈夫であらせられます…」
「なっ、ならば私の裸などで興奮する事などあるかぁ!」
レルツはどうしても裸になるのは避けたかったのだ。
もし股間を覆うもの無くなれば、自分がこの青年たちに魅せられている証しが、皆の前に晒されてしまうからだ。
「レルツよ、そなたはどうしてそんなに抵抗するのじゃ?」
神官は不思議そうに首を傾げる。
「そ、それはこのような場で衣を脱ぐなど…」
レルツは溢れ出る額の汗を拭いながら言った。
「…ここにいる者たちはそなたと同年代の者ばかり、学び舎の友人たちと、入浴施設に行ったと思えば恥ずかしいことなどあるまい…」
確かにレルツもサウナや入浴施設にはよく脚を運ぶ。
しかしそこは貴族専用…こんな逞しい肉体労働ゆえの筋肉を讃えた男などいることは無かったのだ。
「で、ですがそれとこれとは状況が違い過ぎます…」
尚も抵抗を続けるレルツ…
「それでは…これが私の命令としても…そなたは言うことが聞けないという訳かね?」
神官はゆっくりと、静かな声で微笑むが、その瞳から冷たいものしか伝わってはこなかった。
それは早く脱げと促しているように見えた。
目が笑っていない…。
レルツは追い詰められたような気分に陥った。
やはり神官はこの趣味を知っており、それを証明する為にあえて脱がそうとしているのか。
その時、等間隔に固定された男達がどよめいた。