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霧に包まれたコロシアム
官能リレー小説 - 同性愛♂

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霧に包まれたコロシアム 3

裸になった胸板に唇を這わせる娘を、アドルウスは反射的に突き飛ばしていた。
通常の人間としての体温を感じられなかったからだ。
「…!?」
剣を構え直したアドルウスに、長い舌先を覗かせたままの娘が微笑み返したとき、彼の疑念は確信に変わる。
娘の舌先は、アロエベラのような緑色をしていたのだ。
その先端部には、先ほど見かけた「種」が鋭く光っている。
この闘技場を見たときのインスピレーションをアドルウスは思い出す。
この娘こそは、ここに巣食う「食虫植物」そのものなのだ。
ただし、捕食されるのは虫けらではなく、生きた人間なのだった。

種に根を張られ、意識と養分を奪われた哀れな犠牲者たちこそ、あの石像なのだろう。

「…ムッ!!」
いつのまにか、同じ妖艶な顔と、同じ官能に満ちた肉体の群れに彼は囲まれてしまっていた。
剣を真横に凪ぎ払いながら、アドルウスは真っ直ぐに闘技場の中央へと突き進む。
トウモロコシのひげのように金色をした娘たちの長髪は絡み合い、中央の床の石畳の亀裂へ集束していることに気がついたからである。
娘たちの顔や手足の一部が、緑色の体液まみれで切り飛ばされるのには目もくれず、アドルウスは剣を振るい続けた。
娘たちの髪が集まった中心にそびえる、巨大な、それこそ人が一人スッポリ入ってしまうほどもある大きな華のツボミを見つけたからだ。
アドルウスの意図を察した娘たちが、声なき叫びの表情を浮かべながら、巨大なツボミへ向かう彼を追いかけてくる。
「チッ…面倒だッ」
多勢に無勢であったが、相手が何者か判ってしまえば、アドルウスは恐れない。
腰帯に取り付けた革袋から、松明用の小さな油瓶を取り出すと乾いた石畳に叩きつける。
地面に広がる油のシミ目掛け、剣を降り下ろす。
ガチン。
弾けた火花を火種に、油だまりから火柱が上がる。
すぐそばに迫っていた娘の一人が炎に包まれ、その長髪を伝い、次々と食虫植物たちが生きながら焼かれていった。

最後の一人が消し炭となって倒れたとき、アドルウスの背後の巨大なツボミが、ゆっくりと開花した。

「…!?」
肩口で切り揃えられた黒髪。
小さな頭と、それを支える細い首筋。
華奢な体つき。
白く滑らかな肌。

まるで本当に花が咲いたかのように美しい少年が、半透明の粘液に守られてそこに眠っていた。


思わず手を伸ばしかけたが、それは一応後回しだ。
石像にされてしまった男達の安否が気になった。
石にされているのならもう自我は残っていないかも知れない、しかしだからと言ってなにもしないわけにはいかない。
アドルウスは一番近くにあった物を確認する。
指令を出している本体が死んだせいか動く事は無い。だが、体は先程の本体と同じく人間の弾力があった。
「死んでいる、とは思えない」
体温は感じられない、だが死んだ者を操っているという風でも無い。
身に付けた物も灰色に変わっているだけで元の素材のままだ。
アドルウスは先程の少年のそばにそれを立たせた。
同じように目に付く兵士は中央に集めた。
石の様だが、体重は人と変わらないので見た目の割には簡単な作業だった。
彼等から絞り取った物がここに集まっているのだとしたらそれを戻す事が出来るかもしれない、という考えでの行動だった。

鎧をはぎ取られビキニだけになった男達の像が少年を取り囲む様は不謹慎ながらも美しい。
開花した巨大な華の花弁に守られるように、身を胎児のように丸めて動かない少年。
彼を中心に、動かぬ屈強な男たちの像がぐるりと取り囲む。
夕暮れ近い、すみれ色の空の下。廃墟の闘技場の中心で、彼らはまるで雌花を守る雄花たちのようにさえ見える。
疲れも手伝って、その光景をしばらくぼんやり眺めていたアドルウスへ、ゆっくりと歩み寄る小さな影があった。
「…あなたのような屈強な戦士を待ちわびておりました」
杖をつき、ボロボロに朽ちかけたマントらしいものの残骸を体に巻き付けただけの粗末ななりをした、小柄な老人が頭を下げた。
「…あんたか、手紙の主は………ご老人?」
火傷の痕らしい大きなシミに顔半分をおおわれた醜い老人は、両目を細めてうなずきながら、
「はい……実は呪われたかわいそうなあのお方を救っていただける、強いお方を探して、あてもなく近在の傭兵の方々に文を送っておった次第にございます」

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