PiPi's World 投稿小説

大正★陰陽伝
官能リレー小説 - 時代物

の最初へ
 3
 5
の最後へ

大正★陰陽伝 5

「京子さん、できるだけ僕を見ていてください!奴を見てはいけません!」
「は、はい!!」
晴也が思わず叫んだのは、「それ」の姿があまりにも恐ろしいものだったから。
全身の皮膚は醜く腐乱し、下半身は二十本近い触手を以て足とし、上半身は厚みのある胴体に、熊をも撲殺できそうな四本の腕を持つ。両肩の間に首が無く、人間や熊や猿なら肩と首の境目に当たる場所がこんもりと盛り上がって、そこに目玉が四つあるという、人や脊椎動物とも虫とも異なる姿であった。
目玉四つの下に、口がありそこから喋っている。姿にたがわず、重く不気味な声だ。
「お前か、俺を剥がしたのは」
「そうです!これ以上彼女を惑わすのはやめなさい!」
「ふざけるな」
怒る「それ」が四本の腕を伸ばし、晴也に襲い掛かる。
数枚の札を取り出すと、晴也は短く呪文を唱え、投げつける。
「むぐぅ??」
札がそれぞれ、「それ」の腕に当たり、「それ」の腕が殴り掛かろうとする姿勢のまま動かなくなった。
ならばと、「それ」は触手で素早く動き出し、距離を詰める。同時に何本かの触手を伸ばし、晴也に届くかと見えたその時。晴也の足元から、光の柱が立ち、彼を包む。
「ぐああ!!」
「それ」の触手が光の柱に触れると、「それ」は感電したように震え、苦しみだした。
「この陣で引き剥がした以上、もうお前に何かする術はありません!滅びなさい!!」
痺れているらしく、動けない「それ」に対して、晴也はさらに数枚の札を取り出すと短く呪文を唱えて投げつける。
いたるところに札が張り付き、札と、陣のように床に配された符とが一緒に光りだす。
「うぐああ、ごあぁぁ……」

断末魔の悲鳴が消えると、符の光も消え、「それ」の姿は消滅していた。
静寂が戻ってくる。次に晴也が口を開くまで、京子には何時間にも感じられた。
「消滅しましたか…」
「本当……ですか?」
疑うのも無理はない。「それ」の放つ禍々しい圧は、常の人なら即座に逃げだしそうな強烈なものだったのだから。それを必死に晴也に意識を向ける事で耐えていたのだから。
圧が消えただけでは、まだ安心しきれなかった。
だから、安らぐような笑顔になった晴也が言った。
「奴は滅びました。貴女の中の異様な性欲も消えたのではありませんか?」
「あ…」
京子は、あのいかがわしい性欲が消えた事に気が付き、きょとんとした。
そして、澄み渡るように身と心が清められたような、そんな気がしていた。

憑き物が落ちた清浄感あふれる瞳で、信じられなさそうに綺麗な顔にきょとんとした顔を浮かべている京子。
「それ」を滅し、一息ついた晴也は、京子のきょとんとした顔に、どくん!と心が高鳴るのだった。
(僕は、ひょっとして京子さんに…)
そして、自分に取り憑いていた「それ」が消えたことを京子は少しずつ実感していた。
その間も彼女の視線は、目の前で優しく微笑む晴也に向けられていた。
「私、私……助かったのね……」
「奴は滅びました。逃げただけなら、人で言えば足跡やにおいのような痕跡が残るのですが、それもありません」

SNSでこの小説を紹介

時代物の他のリレー小説

こちらから小説を探す