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大正★陰陽伝
官能リレー小説 - 時代物

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大正★陰陽伝 1

時は大正時代…まだ大不況や戦争の足音も聞こえては来ず、文化の香り漂う呑気な時代であった。
日本は明治維新・文明開化から数十年の時を経て、日清・日露の戦いに勝利して世界五大強国の一国にも数えられるようになり、大いに繁栄を謳歌していた。
庶民目線で見ると、特に都市部などでは街並みや道行く人々の服装なども西洋化が進み、江戸時代の名残は姿を消しつつあった。
また、人々の内面に目を向ければ、この頃は人間の理性が感情を征服していった時代でもあった。
それまで人々の間でまことしやかに信じられていた民間信仰や言い伝えなどは、次々と科学によって解き明かされ、
科学的に見て意味を成さない事物は“迷信”と呼ばれた。
都市では電気という文明の灯りが夜の暗闇を消し去り、人々は自然や人智を超えたモノに対する畏怖の念を忘れていった。

だが…


そのような時代にあってなお、科学の観点では説明する事の出来ない…それこそ人智を超えた霊的存在の仕業としか考えられないような事件や出来事は起こっていた。
どうやら人為の力によって住処(すみか)を奪われた闇の住人達は、逆に人間達の中に入り込んだようだ…。

この物語は、そんな闇の住人達と渡り合う能力を備えた一人の青年と、彼を取り巻く美しくも淫らな乙女達の物語である…。

 ★

「うぅ〜ん…」
ある古い下宿屋の玄関先にて、一人の青年が腕組みをして難しい顔をしている。
年の頃は二十歳前後といった所か…細身で色が白く、とても整った顔立ちをした美男子だ。
だが黒縁の丸眼鏡をかけ、長く伸ばした髪を後ろで縛っており、全体的な印象は野暮ったい。
彼の目の前には木の板に墨で“土御門心霊相談所”と書かれた看板(?)が掲げられていた。
下宿屋の玄関先にである。
「んん〜…もう少し上の方が良かったかなぁ…」
青年が一人ブツブツ呟いていると突如として背後から威勢の良い声がした。
「土御門(つちみかど)さん!何をなさってらっしゃるんですか!?」
青年が振り向くと、そこに居たのは年の頃十六、七と思しき一人の娘であった。
おかっぱ頭で、顔立ちは“美少女”と呼んで良い容貌をしている。
ぱっちりとした二重まぶたの大きな瞳に、小ぶりな鼻と唇…“美しい”というよりは“可愛い”という形容詞の方が似合う。
薄桃色の小袖に紺色の袴…この時代には良くある女学生の服装だ。
だがその胸元には、この時代の女性にしてはやや…いや、かなり大きな膨らみが、たわわに実って揺れていた。
青年はにこやかな笑みを浮かべて娘に言う。
「やあ、貴女(あなた)は確か大家さんの娘さんで、名前は確か…小夏(こなつ)さん…?」
「小春(こはる)です!」
娘はきっぱりと言った。
「…説明的な台詞(せりふ)での紹介ありがとうございます…と言いたい所ですが、名前を間違えられてはどうしようもありませんよ」
「これは失礼いたしました」
娘…小春は看板を指差して言った。
「それで話を戻しますが、あなたは一体何をなさっているのですか?これは一体どういうおつもりですか?」
「おぉ!よくぞ聞いてくださいました」
青年は少年のように瞳を輝かせて喋り出した。
「私、土御門 晴也(つちみかど せいや)、本日よりこちらで“心霊相談所”を開設する事と相成りましてですね、これはその看板なのです。…あ、心霊相談所というのはですね、この世には人ならざる者によって引き起こされる怪奇な事件が数多く存在しておりますから、ここはそういった事件を取り扱う相談所なのですよ。本当は“心霊探偵事務所”にしようかとも迷ったのですが“探偵”という言葉を使うと危険な依頼なども来るかも知れないので止めました…」
「そんな説明は求めていません!」
小春は切れた。
「な…何をそんなに怒っておいでなのですか…!?」
「ここは下宿です!下宿!げ・しゅ・く!…勝手にそんな薄気味悪い商売の事務所に使われちゃあ困ります!」
「う…薄気味悪いとは失礼な…!?」
「商売がなさりたいのならどうぞ都心の雑居ビルディングでも何でも借りてなさってください!」
「そんなお金はありません!」
「とにかく家の下宿をそんな訳の解らない事に使うのはお断りです!その看板も撤去してください!」
「そ…そんな無茶を言われましても…(もう新聞に広告を出してしまったしなぁ…)」
「まぁ、無茶ですって!?無茶はどちらですか!とにかくこの奇怪な看板を今すぐ取り外していただけないと言うのであれば家から出て行っていただきますからね!」
「わ…解りました解りました…この下宿は結構気に入っているので追い出されては堪りません…看板は撤去いたします(仕方が無い…自室の前に掛けておくとするか…)」
「看板だけじゃありませんよ!怪しげな相談所も禁止です!良いですね!?」
「はーい…」
小春はプンプンと怒りを露わにしながら家の方に戻って行った。
(まったく…威勢の良いお嬢さんだ…)
その背中を青年…晴也が半ば呆れ顔で見送っていると…
「あ…あの、もし…土御門心霊相談所というのはこちらでよろしかったでしょうか…?」
「はい、そうですが…?」
…声を掛けられて晴也が振り向くと、そこには一人の若い女が立っていた。
年齢は二十代半ば程だろうか…長い髪に白い帽子を目深に被って顔を隠しているが、かなりの美人だ。
だが服の趣味が悪い。
まるで血のような真っ赤なワンピースに、同じく真っ赤な靴…正直かなりどぎつい。

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