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影武者生活
官能リレー小説 - 時代物

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影武者生活 1

時は戦国、乱世の時代。
各地の武将達が「我こそ天下の覇者!」と相争っていた頃、ちょっと中央からは外れた、割と田舎の地方に二つの国があった。
その名を山背国(やましろのくに)と水門国(みなとのくに)と言う。
山背は大国だが交通の便の悪い内陸にあり、おまけに土地も痩せていて、その面積に対して石高は意外と低かった。
一方、水門は小国ながらも、実りは豊か、しかもその名の示す通り海に面しており、全国各地へのアクセスの良いのを利用して広く海上交易を行い大いに繁栄していた。
…そう、もうどうしようもなく侵略戦争の流れである。
山背は水門の地を狙って侵攻の準備を着々と進めており、水門の方もそんな山背に対して警戒を強めていた。
そういう訳で両国の緊張が次第に高まりつつある中、山背国領主・大山田 種勝(おおやまだ たねかつ)の居城から物語は始まる…。

「お前が枯飯村(かれいいむら)の水呑み百姓、吾作か。苦しうない、面(おもて)を上げよ」
「へ…へい…!」
城内の中庭に面したある一室に主だった重臣達が集まっている。
最も上座に座っているのはまだ十代後半と思しき若者だ。
顔立ちは美男子…とまではいかないが、なかなかの好青年である。
彼こそが大山田 種勝。
父・大山田 種親(たねちか)の急死により、若くして領主の座を継いだ新進気鋭の若殿だ。

種勝と重臣達の視線は庭先に平伏している小汚い野良着姿の農民に注がれている。
その農民が種勝の許しを得て顔を上げると皆から驚きの声が漏れた。
「おぉ!」
「何とまあ…」
「いや、世の中には良く似た人間が三人は居ると申しますが…これはまた…」
そう、この吾作という男、領主の種勝に瓜二つだったのである。
「う〜む…気味が悪いほど良く似ておる。重政(しげまさ)、良く見付けた。誉めて取らす!」
「ははあ、有り難き幸せ!」
そう言うと家老の田中 重政(たなか しげまさ)は頭を下げた。

一方、当の吾作は緊張と恐怖から小刻みにカタカタと震えている。
(オ…オラ、一体何で連れて来られたんだべ?領主様や周りのお侍様方の様子からして殺される心配は無さそうだども…)
彼はいつも通り村で畑仕事に精を出していたら、いきなり城の侍達が来て「ちょっと来てもらおうか」と引っ張って来られたのだ。
最初、吾作は死を覚悟していた。
彼ら領民の間では、領主の種勝は大変に冷酷非道な男で、新しい刀の試し斬りや憂さ晴らしに領民を殺すと噂されていた。
先代領主・種親も実は種勝が謀殺したのではないかと言われている。

種勝は中庭に降りて吾作に歩み寄り、言い放った。
「吾作、悪いがお前には今日ここで死んでもらう!」
「ひえぇぇ!!?や…やっぱりいぃ!?ど…どうかお助けくださいませぇ〜!オラには年老いたおっ父とおっ母と病気の妹がいますだ!どうか命ばかりは…!」
「早合点をするな。“死んでもらう”と言うのは“世間的に死んでもらう”と言う意味だ。吾作よ、お前は今日から俺の影として生きろ!」
「影…?」
「そうだ。影武者…つまり俺の偽物だ。俺が隣国の水門を狙って兵力を増強しているのはお前たち領民も知っているだろう。こんな時には水門側が俺を亡き者にしようと刺客を送り込んで来ないとも限らん。そういう時こそ偽物が役に立つのだ」
「待ってくだせえ!身代わりでねえだか!」
「そうだが?」
種勝はアッサリと言ってのけた。
「オラ、領主様の代わりに殺されるなんて嫌だよ〜!影なんてお断りしますだ!」
「ほほう、実に素直なヤツだな。だが断れば殺す。今ここで殺す。ついでに村に居るお前の両親と妹も殺す。それでも断るか?」
「そ…そんなぁ…っ!?」
「吾作よ、良く考えろ。残される家族が心配か?ならばお前がこの俺の影武者となれば、お前の家族には一生食うに困らぬ金を支給してやると約束しよう。お前は城に住み、毎日三食俺と同じ飯を食い、俺と同じ服を着るのだ。お前のような水呑み百姓にとっては夢のような暮らしではないか?」
さらに種勝は吾作にそっと耳打ちした。
「…それに、城内で働く女達の中で好みの者が居れば、少しぐらいなら好きにしても良いのだぞ?」
「…っ!!」
その言葉に吾作はピクリと反応した。
彼も男だ。
この誘惑は大きかった(いや、そもそも「断ったら殺す」という時点で選択の余地は与えられていないのだが…)。
「どうだ?俺の影、やってみる気は無いか?」
「は…はい、領主様。やらせていただきますだ…」
吾作は承諾した。
その時の彼の表情は、ちょっとイヤらしかった。

この日、この時をもって“吾作”という人間はこの世から居なくなった。
吾作の家族には彼の死が(「委細は言えぬが吾作は領主様のために死んだ。死体は無い」という風に)伝えられ、慰弔金という事で莫大な金が手渡された。
そして吾作の影武者生活が幕を開けたのである。

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