ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 76
桜ちゃんと別れて家に帰った。
「明日お迎えに来ます!」
そう笑顔で言って桜ちゃんは去っていった。
「あら、お帰り」
「今日も香澄ちゃん泊まるけど」
「いいわよ〜、美味しいご飯作っちゃうわよ」
「わ〜、ありがとうございますぅ」
「香澄ちゃんと拝くんは“美味しい美味しい”って、いっぱい食べてくれるから、母さんも作りがいがあるは~」
「え?啓くんって、今夜も家で飯食っていくのかよ?…」
「ええ。あの子、お母さん早くに亡くされて、お父さんと二人で青山さん家に住み込みじゃない…
毎日賄い食みたいな食事じゃかわいそうだから、毎日家で食べて来なさいって、私が言ったのよ〜」
…あ、啓くんって、父子家庭だったのか…
…啓くんは啓くんで、苦労してるんだな。
少し彼に対する見方が変わるかもしれない。
…それにしても、お袋、向こうの事情知ってたのか?
啓くんは自分から家の事情を話すような人ではなさそうなので、少し気になった。
まあ、おばさん特有の三面記事的な近所の噂話しから出てきた話しなのだろうから、信憑性には欠けるとは思う。
何せ丘上の青山家は、僕たち一般庶民とはかけ離れた存在であるから、そういった噂も出やすいのだろう。
…これはお袋と言えども、安易に啓くんの初体験の相手を語ったりでもしたら、あっという間に近所中に知れわたるかもしれないな…
僕は鼻頭をかきながら、台所で夕食の準備にかかるお袋を、訝し気に見た。
リビングにはポテトチップス片手にテレビを見る葵と、携帯ゲームに熱中する栞の二人。
「あ、匠兄ぃ、お帰り」
「おう」
…なんか、この二人は梓と違って女の子らしさがどこかに行っちゃったみたいだな…
おまけに二人ともスッピンか。まあその方が可愛いんだけど。
「あ、香澄ちゃん今日もお泊り?」
「はい!そうですー」
栞と香澄ちゃんはすっかり仲良しだねぇ。