ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 694
「お腹が目立つようになるまでは、頑張るつもりだよ…でも、大学に行くのは、諦めないといけないかな」
梓はちょっと寂しそうに言う。
それこそ啓くんと一緒の大学、とか言ってたのがこの前のことだ。
「別に大学ならいつでもいけるよ、子育てに余裕が出来たらとか」
「でも、そうすると経済的にね」
僕も葵も栞も大学にはいってるから、梓にも思うところはあるだろう。
「まあ奨学金とかも今は充分してるし、やる気になれば大丈夫じゃないか?…それに親父の学校は他に比べると、給料はかなりいいらしいから、そいつがちゃんとやってけるなら心配は無いと思うぜ」
「そうなの?…」
「ああ、公立の学校に比べると倍近くは出るんじゃないか?…それでもいつクビになるか分から無い、不安はついて回るみたいだけどな…」
「そうなんだ…」
「まあ、あとは梓とそいつで相談して決めることだ。自分で決めたことなら誰も反対なんてしないだろう」
「うん…よく考えてみる」
梓は涙を拭いて、ニコッと笑って見せた。
いつまでたっても、可愛い妹には変わりない。
考えてみたら、これからのことや自分の将来のこと…1番不安に感じているのは梓本人なんだもんな…
いくら腹の中に子を宿したからといって、いきなり強くなれたり、全てを犠牲にしても…なんて割り切れる訳なんてないよな…
「どういう形になったとしても、僕は梓のみかただから…頑張れよ…」
「ありがと、匠兄ぃ。私、頑張るから」
まだ涙が残る、赤く腫れた瞳。
それでも、僕には気丈に笑顔を見せ、強い口調でそう言う梓。
お前はそれでいいんだ。
誰よりも生意気だけど、一番芯の強いヤツだからな…
…やがて親父とお袋も帰ってきて、いつもと変わらない夕食を囲むことになる。