ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 692
葵や栞でもそうだけど、昔から生意気な妹たちで、僕はいつも困らされていた、そんな記憶しかない。
だから、なんだか感慨深いというか、何と言うか。
「ただいまぁー」
玄関からいつものように元気な声がした。
梓が帰ってきた。
「おかえり」
「結果はどうだった?」
葵と栞はニコニコと梓に尋ねる。
「うん、全部話してきた。やっと、肩の荷が下りた…感じがするよ」
「それって啓くんに…?」
なんだかドキドキしてしまう…
出来ればその話しは、僕のいる所でして欲しかった…
「あ、匠兄ぃ帰っていたんだね。」
テヘって感じで照れ笑いを浮かべる梓は、これから母親になるとは到底思えない、ごく普通な女子高生だった。
こんな可愛い顔しながら、梓もいずれ母親になるのだ…正直香澄以上に想像出来ない。
「…梓」
「ふふっ、匠兄ぃ…ありがと」
梓の声が微かに震えていた。
「感謝される覚えはないさ、梓が自分で決めたことなら、僕は全て支持するよ」
「匠兄ぃ〜………!!」
梓は僕の胸に飛び込んで来て、ヒクヒクとシャクリ上げた。
振られるより振る方が辛いことがある…
僕は啓くんばかりを心配してことを反省してしまう…
「辛かったんだな梓…よく頑張ったな…」
僕の胸の中で、嗚咽を漏らす梓。
こんなこと、もう十数年となかっただろう…過去にあったかどうかすら微妙かもしれない。
歳をとるにつれ、それに東京にいってる間に、ずいぶんと生意気になったとは思っていたが、それでも可愛い妹には変わりなかった。
初めて経験する大きな壁を乗り越えて、梓はさらに強くなる、そう思いたかった。