ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 646
…まあ今考えることじゃないだろうけど。
今のお袋はショックも半分くらいあるんだろうけど、実際に孫の顔見せたら喜んでおばあちゃん役買って出てくれて離してくれないだろうな、なんて想像してしまう。
夕食が終わり、香澄はお袋と一緒に後片付けの最中。
僕らはリビングで他愛もない会話を繰り広げていた。
そこに、ピンポーンというチャイムの音。
「こんな時間にお客さん?誰かかわりに出てくれない?」
お袋が言うので、僕が真っ先に玄関へ向かう。
「どちらさまです?」
「あっ、匠さーん」
…この声、椿ちゃん?
「どうしたのこんな時間に?…」
まだそんなに遅くは無いけど、子供が一人で出歩く時間でもないもんな…
「昨日はせっかく来てくれたに、2人に会えなかったからぁ…」
小さな声で俯く椿ちゃん…
自分が悪いことしたって、分かっているんだね…
「一人で大丈夫だった?」
家と青山家は一直線だけど、坂がきついし車通りも多くて、それでいて街灯はあまり多くないから椿ちゃんみたいな子が一人で歩くって心配なんだよね。
「ふふ、匠くん、椿一人で来させたわけじゃないからね?」
「ちょ、弥生さんいたんですかっ」
すっかり暗いから椿ちゃんの後ろにいるなんてわからないじゃないですか。
「久しぶりだね。このお家はあまり変わってない」
親友だったお袋と仲たがいしてから、この家には初めて来る弥生さんだった。
「さあ上がってください。お袋も喜ぶと思いますよ…」
「なんだか緊張しちゃうな…出て行けって言われたらどうしよう…」
「そんなことある訳ないですよ。お袋だってずっと気になっていたに違いないですからね…」
「匠ぃ、お客さんは…あら」
気にかけて玄関までやってきたお袋。
「久しぶり、操」
「もう…来るなら電話の一本でも入れてよぉ」
親友同士、十数年ぶりの再会。
2人とも笑顔だけど、次第に込み上げてくるものがあるのか、その表情が崩れ…お互いに抱擁して、そのまま…
もらい泣きしそうになるのを抑え、僕は椿ちゃんを家の中に招き入れその場を後にした。