ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 636
「いや、この前でも今でも…話が聞けてよかったよ。親父がいなかったらお袋にも同じことを聞いてたと思う。お袋の状況を知れたのも…」
「ああ…それが一番辛くてな」
「いいよ…ありがとう、親父」
僕は親父の肩を軽く叩いてリビングに向かう。
「青山にも、聞いてみるといいぞ」
「うん」
リビングには香澄が僕の来るのを待っていてくれた。
「大丈夫です?匠さん…」
「ああ…思っていたよりこたえてないよ…」
「強がらないでください…せめて私の前では…」
「うん、ありがとう…僕には香澄がいてくれるから…こんなことぐらい堪えられよ…」
そう言いながらも、僕の頬に一筋の涙が流れてしまう
「我慢しなくていいんです。匠さんは、もう一人じゃないんですから」
香澄はそう言って僕の肩に手を置いた。
「ありがとう、香澄…」
強がって見せても、声が掠れてうまく出てこない…
「無理しないでくださいね、私はずっと匠さんの側にいます」
涙で濡れた僕の頬に香澄の唇が触れる。
それは母親が子供にするみたいな、暖かいキスだった。
僕は香澄の顎をそっと動かし、その唇に触れる。
淡いキス…
それは初めてのキスをした時みたいに…優しかった。
「匠さん」
香澄は唇を離し、僕に微笑みかける。
「ありがとう、香澄」
その頭を優しく撫でた。
辛い事実はもう変えようはない。
それを受け入れ生きていくだけだ。
香澄のお腹にいる子には、絶対そんな目にはあわせてはいけない、僕は改めて強く心に誓う。