ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 506
「息子って…確か鈴田は独身じゃ?…」
「はい…でも噂では、養子に入った次期社長が、鈴田美重子さんの息子と言われています…」
「次期社長…私は会ったことは無いが…確か匠くんと同じ名前じゃ…?」
「はい…字こそ違いますが『巧』というそうです。それに‥」
「まだ何かあるのかね?…」
「それが…生年月日も僕と全く同じで…」
和彦さんは腕組みして唸り、深く考え込む。
「操さんは双子を妊娠していた?そんなことは聞いたことないし、弥生さんも君にしか会っていないと言っていた」
「ええ、それは聞きました」
「もしかしたら、鈴田の療養というのも…」
「…なんでしょうか」
「私も一度、鈴田に会う必要がありそうだな…」
「はい…僕一人ではもうどうしようなくて…」
不安が胸を締め付けた…
目の前の和彦さんですら、本当の父親では無いかもしれない…
増しては、思って疑わないお袋ですら、僕の母親では無いかもしれないのだ…
「匠くんが私を頼ってくれて嬉しいよ…どんな手を使ってでも、真実を突き止めるからな…」
「ありがとうございます。もう、和彦さんしか頼る人がいなくて…」
「任しておきなさい…これは、青山家をも揺るがす、重要な案件かもしれないからな…」
和彦さんの目は、一大企業の主たる、強く厳しい眼差しだった。
「とりあえず、匠くん、しばらくこのことは柏原先生、それに操さんには黙っておいて欲しい…大丈夫かな?」
「あ、はい…」
そう言って貰えて助かった。
親父とお袋にこの事を聞かなければいけないと考えるだけで、胃が痛む思いだったからだ…
そして、今まで何処かで和彦さんのことを、単なる跡取りとして社長になった人…
そう思っていたことが申し訳なくもなる。
和彦さんは頼りがいのある、立派な男なんだと…初めて分からされる思いだ。