ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 429
「はいはい、そういうのはやめなさい」
香澄の腕を掴んで動きを止める。
「僕にしても香澄にしても『よそ者』の血が混じってるんだから気にはならないさ」
「そうですよねぇ」
「それより、明日はまたお医者さんに見てもらうんだから、早く寝なよ」
「はぁい、おやすみなさぁい♪」
暫くすると規則正しい寝息が聞こえてくる…
僕は香澄がちゃんと寝ていることを確認し、そっとティッシュを抜き取る…
女房が妊娠中に浮気をする男は多いというけれど、僕は自慰で我慢していた…
それでも横でそんなことをしているなんて、香澄には気付かれたくないのは当たり前で、大量のティッシュを被せ、極力音の出ないようにコソッと扱く…
こんなことにも罪悪感がわいてしまうが…あと数ヶ月はこの辛抱が続くのだ…
…それから数日。
今日はオフィスで、外回りではなく珍しくデスクワーク。
こういうこともたまにある。
「匠さん、ご苦労様です」
そう言ってお茶を持ってやって来たのは同じ部署の最年少、浦辺葉月ちゃん(22歳、彼氏なし)だ。
「ありがとう、葉月ちゃん」
「いえいえ」
ニッコリと微笑む葉月ちゃん…
こんなに可愛いのに、彼氏がいないなんて信じられないよね…
「僕みたいな下っ端に気を使ってくれて申し訳ないね。」
「いいんですよ…私も飲もうと思って、ついでですから…」
パステルカラーのマグカップを掲げる葉月ちゃん…
葉月ちゃんにはピンクとか水色とか、そういう淡い色がお似合いだよね…
「匠さんのそういう姿見るのって、あまりないので新鮮です」
「いやぁ、これでも以前は毎日パソコンの画面と格闘してたんだよ」
今思うと懐かしい話だけどね。
葉月ちゃんの可愛らしい微笑を見ると、仕事に追われている今でも癒されてしまう。
―思えばウチの部署、ゆかりさんと夏子さんは既婚(ゆかりさんはバツイチ、夏子さんは娘さんがいる)
残る沙織ちゃん・美月ちゃん・美玲ちゃんは全員彼氏持ち。
そして僕は妊娠中の婚約者?がいる。
その中において、葉月ちゃんは肩身の狭い思いをしてやいないかと思うと、ちょっと心苦しいところがある。