ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 416
言ってみたら執事の仕事って、秘書と通じるところがありそうだもんな…
それに社交的な杏さんのことだ、きっと水を得た魚のように活躍しているに違い無いよな…
まあ、世話になった杏さんに会えないのは残念だけど、近いうちにまた遊びに来ればいいもんね。
「そういえば匠さん、お嬢様と結婚なさってからはこの家にお住まいになるんですよね?…」
「ん?…ぅむ…」
考えていない訳では無かった…
それでも両手を上げて“喜んで!”という気分にはなれなかった…
「それはね…僕もよく考えてなくて、どうしようか迷ってはいるんだけど」
「そうでしたか…」
萌ちゃんが言う。
今は『花嫁修業』として香澄が我が家で同居している。
しかしその後はまったく未定なのだ。
「杏さんから話は聞いたんですけど、ご主人様は匠さんたちの考えに任せるそうで、お嬢様と匠さんがお住まいになるお部屋を用意してもいいと仰っていました」
「ほお…」
ソフィアちゃんがここで言う『お部屋』は、このお屋敷の中なのか、それとも和彦さんが僕と香澄が2人で暮らすと考えてマンションの部屋を用意するのか…これもわからない。
僕としては、香澄と産まれてくる子と3人で暮らしたい。
だけど和彦さんと一緒に暮らしたい気持ちもあった。
世間的には義理の父になるんだけど、本当は実の父親なのだから…
一緒に生活して、今まで知らなかった和彦さんのいろんな面を見てみたい、知りたい…そんな欲求は血が呼ぶものなのだろうか?などと考えてもしまう。
「匠さぁん、着きましたよぉ」
マホガニーの扉の前で、萌ちゃんが言う。
そこは初めて足を踏み入れる、桜ちゃんの部屋。
香澄と桜ちゃんがここで2人きり…少し気にはなる。
ドアを開ける。
「…あっ、聞こえます…」
「ね?元気でしょう〜?」
2人の声が聞こえる。
香澄のお腹に耳を当てて、なんだか感慨深い表情をする桜ちゃんこと紺野桜子ちゃん(18歳、メイド歴3年)。
香澄とは小さい時から大の仲良しで、香澄が親友と呼べる唯一の存在だ…
「お邪魔していいかな?…」
部屋の中に足を踏み入れ、小さく聞いてみる…
「あぁ〜匠さぁ〜ん!会いたかったですぅ〜…」
涙目の桜ちゃんは、満面の笑みを浮かべた…