ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 401
「今戻りました…」
「あ、おかえり、匠くん…」
夏子さんがハッとした表情で僕の方を向いた。
「今、何の話を…」
「そうそう、ゆかりが会社を辞めるって、突然言い出して…」
夏子さんが僕に説明する。
「いきなりでごめん…でも、新しい人生をスタートさせるために…」
ゆかりさんが言う。
「新しい生活って何なんですか?!…」
辞めて欲しくはない僕の口調は、自然と強くなっていた…
「匠くんも知っているでしょ?…今、啓と一緒にいるって…」
「あ、はい…伊藤さんがあんなことになって…」
伊藤さんは啓くんにも告げに、突然旅立ってしまったのだ…
「それは知ってる…でも、仕事と家庭は切り離して考えるべきなのよ」
夏子さんが言う。
さすが冬美ちゃんの母、その言葉には重みがある。
「わかってる…でも、私も、啓も、どうすればいいのか全くわからないのよ…」
「そんなこと、啓くんだってもう子供じゃないんだし…」
「だからといって放ってはおけないは…今回のことであの子…二度目なのよ…親に置き去りにされるの…」
ゆかりさんは何かを堪えるかのように拳を固く握った。
「それで今、啓くんはどうしているんです?…」
あれ程毎日家に来ていたというのに、最近はすっかり姿を見せなくなっていた…
「学校には行ってるわ…でも、表情は寂しそう…ショックが大きいのね、私もなかなか声をかけることができなくて…」
父である伊藤さんがいなくなってしまったのはやはり大きいのだろうか。
そういえば、梓も啓くんのことを話すことがまったくなくなってしまった。
いつまでもこんな状態が続くと、2人の関係にも問題が生じてしまう。