ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 385
「まったく何のために香澄が家で暮らしてるのか…君だって梓と一緒に…」
「まあ、そうですよね〜…」
香澄にスーツの上着を渡し、リビングへ。
「お帰り匠兄ぃ、旦那様の風格だねぇ」
ソファーで携帯ゲーム機片手に優雅にくつろぐのは真ん中の妹・柏原栞(大学3年生)。
「就職決まったからってよ、遊んでばっかでいいのか?…」
僕は兄貴風を吹かせる。
「ちゃんと大学には行ってるよ。内定取り消しなんてことになったら、和彦さんに合わす顔が無いもんね。」
栞は、青山ホ―ルディングの社長と親戚になると知ると、ちゃっかり和彦さんに就職のお願いに行ったのだ。
直接的に血のつながりはない、しかし和彦さんにとっては可愛い娘のようなものだと思ったのか、トントン拍子で採用が決まってしまったのである。
…まあ、僕と関わりのない部署という前提だが
「栞姉ぇ…やるな…私だって…」
「あのなぁ、二匹目のドジョウがいると思うなよ」
夕食が近いとわかって1階に下りてきた梓と、帰るなりシャワーを浴びていたらしい一番上の妹・柏原葵(保育士)。
「青山も懐の広いやつだな」
それを横目にのほほんとしているのはわが育ての父・柏原岳(高校教諭)。
これが、香澄の妊娠が発覚してから、僕たちを暖かく迎えてた我が家の面々だ。
「香澄ちゃんお腹目立ってきたね〜。男の子なんじゃない?…」
濡れた髪をタオルで拭きながら、香澄のお腹を撫でる葵…
「おっそれは大歓迎だ!女系家族の柏原家で男の子は貴重だからな!」
親父…、あんまし甘やかさないで下さいよ…。
「ふふふ…今度先生に診てもらってきますので、皆さんお楽しみにしていてくださいねぇ〜」
何より、香澄がこんなに幸せな顔を見せてくれるから、僕も嬉しいのだ。
「あっ、そんなことより、ご飯が炊けますねぇ〜」
香澄がパタパタとキッチンへ駆け出す。
「あんまり無理するなよ」
それについていく。
「ふふふ、いい夫婦ねぇ」
お袋が後ろで呟いた。
いろいろあったけど、この家庭が僕の何よりの支えである。