ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 300
「まあ、男だから、それくらいが普通さ」
伊藤さんは笑い飛ばしながらそう言った。
「なんなら持って行くかい?」
「け、結構です!」
いくらなんでもそこまで出来るか。
伊藤さんはスーツを入れる袋をくれた。
「着てくれる人がいると服も嬉しいだろう」
伊藤さん、機嫌が良いのだろう、笑顔が絶えなかった。
その、顔をクシャクシャにしながら微笑む伊藤さんを見ていると、こっちまでなんだか幸せな気分になる。
細かい事は気にしない、竹を割ったような性格は見なうべきところが多大にあった。
「そう言ってもらえると僕も嬉しいです。大切に着ます!」
僕は伊藤さんを真似て、顔をクシャとさせながら微笑んだ。
「ああ、よろしく頼むな!」
伊藤さんは僕の肩をポーン、と叩いた。
さて、物は選んだしこれで帰りましょうと思ったのだが
「匠さんもよろしければ」
涼香さんがお茶を入れて、差し出してきた。
「あ、すいません…」
既にそうすることが当たり前のように、テーブルには三人分のケーキがセットされていた。
これじゃあいくら僕が気が効かない男でも、断ることなど出来ないよな…
「それじゃあお言葉に甘えて、ご一緒させて頂きます…」
「よかったぁ〜!匠さんと宏さんと一緒だなんて夢のようだはぁ!…」
喜んでくれるのは嬉しいですけど、それはちょっと言い過ぎじゃないですか?;…
伊藤さん同様、涼香さんもご機嫌で、素敵な笑顔を輝かせていた。
「今日はやけに機嫌が良いな」
「そんなことありませんわぁ〜」
…涼香さん、誰が見たってわかりますよ。
しかし、2人の仲睦まじさはこちらからも十分伝わる。
この2人が夫婦だと言ったら、疑う人はいないだろう…