ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 289
「なんかそうみたいだ…」
僕は腋の下に鼻を宛がい、渋い顔をして見せた…
「それなら梓たちが起きて来る前に、入っちゃった方がいいと思うよ…なんせ朝シャンやらなんやらで、当分使えられなくなるからね…」
「そんじゃ、ザッとシャワーして来っかな…」
「啓くんと一緒じゃ狭いだろうけど、その辺は上手くやって頂戴よ…」
なんだ…また啓くんと裸の付き合いですか…;
風呂場に向かう。
シャワーの水音は外からでも聞こえる。
ホントは一人で浴びたいところだが、時間的に文句は言っていられない。
服を脱いで、僕も中へ。
「啓くん、入るぞー」
「あ、お兄さん、すぐ終わるので…」
いきなり“カチャ"っと鍵の閉まる音…
へぇ?、今更何を恥ずかしがってんだ?
初めて一緒に入る訳でもなく、互いのモンは散々晒し合った仲だというのに…
全く…思春期の少年の心理は、おじさんには分からんよ…
僕は仕方なく洗面鏡に向かい髭を剃りながら、待つしかなかった…
そうやっているうちに
「お兄さん、すいませんね」
「ああ、別にいいよ」
啓くんと入れ替わりに風呂の中へ。
「父さん、起きました?」
「まだ寝てるよ。昨日は悪かったね、迷惑かけて」
「いえ、家でもああなので、慣れてますから」
洗面所で背を向けながら、隠すようにしてそそくさと服を着る啓くん…
「伊藤さんて見た目と違って、凄く気さくな人なんだね。」
「何考えてるか分からない顔してますもんね。実は何も考えて無いんですよぉ」
笑いながら啓くんは出ていった。
風呂場のドアを閉めると、どこか嗅ぎ覚えのある"あの臭い"が漂ってきた。
ん…?