ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 243
終電ぎりぎりに飛び乗り、車窓を流れる闇の森林を眺める…
啓くんのお母さんは亡くなったと言っていたよな…
それじゃあ、白鳥部長とやらはその後の後妻なんだろうか?
でも…伊藤さんと涼香さんの関係を考えるとそれは考えにくいよな…
いや待てよ…お母さんが亡くなったと言っていたのは涼香さんたち大人だ…
もしかして…亡くなったと信じているのは、啓くんだけなのか?…
…複雑な思いを抱きながら家に帰る。
当たり前ではあるが、家の中は真っ暗、みんな寝てしまった。
台所にお袋が「お疲れ様」という書き置きを残していた。
…ありがとう、お袋。
仕事、案外なんとかなるかもしれない…かな。
皆を起こさないように足を忍ばせ部屋に入る。
“全く…”
案の定ベットは啓くんに占領されていた。
引きずり落とそうと、手を伸ばしたが…思い止まる…
“もしかしたら…お前の母ちゃんの下で働くことになるんだぜ…”
僕は心の中でそう呟き、啓くんの額をそっと撫でた…
押入れから敷布団を引っ張り出し、部屋の床に敷く。
啓くんがいるなら、これでも問題はない。
「君だって苦労してるんだな」
寝ている啓くんにそう言い、僕も横になる。
…さあ、明日は久しぶりに、昼くらいまで寝るとするかな…
夜中、うなされそうな圧迫感で目覚めると、ベットから落ちたのだろう啓くんが上に乗っていた…
おいおい、意味ねぇじゃん…
仏心を出した僕がバカだった…
覆いかぶさるその身体を、乱暴に退け、僕はベットに移動した…