マンガ家理恵先生とアシの晋一くん 44
「ありがとう、嬉いな晋一くんがそんなに喜んでくれると」
「そりゃアシスタントの前に僕は先生のファンですもん、嬉しいですよ!」
「ふふ、それでねページ数も多くてね」
いつの間にか晋一の手を取り、真剣に語る理恵の目にはキラキラと輝いて見えた。
自分の師でもある彼女の生き生きとした顔は、晋一にとっても良い刺激になる。
いつか理恵のように自分の作品について語れる日がきたら、どんなに嬉しいだろう。
想像すると胸が高鳴る。
理恵が夢中でストーリーの流れやキャラの動きなどを説明していると、電子音が響いた。
「あ、返って来た、ちょっとごめんね」
「はい」
するりと抜ける細い指を名残惜しそうに見つめた。
受話器をとった理恵は少し事務的な口調で会話をしている。
後ろ姿を見つめていると理恵が首を傾げたり、受話器を持つ手とは反対の手で肩を揉む仕草に気づいた。
「はい、わかりました、じゃあ進めますね……はい、おつかれさまです」
そっと受話器を元に戻し、クルリと身を翻した理恵の顔は満面の笑みで埋め尽くされていた。
「オッケーだって、やったー」
「お疲れさまでした」
「うん、明日から取り組めばいいし、今日は仕事終わり!」
目を細め嬉しそうに頬を桜色に染める、その何気ない仕草に晋一の心も温かくなる。
「あーーホッとしたら疲れが……」
腕を曲げ肩をトントンと叩く。
「肩こりですか?」
「うん、やっぱりこの仕事にはつきものでしょ」
あははと笑ってみせるが、その顔にはやはり疲れが見え隠れしていた。
自分も机に向かっていると肩は痛くなるが、彼女がその痛みに耐えていると思うといても立ってもいられなくなった。
「僕マッサージしますよ!」
「えっ、い、いいよ」
「良いんです、ささどうぞ」
おもむろに立ち上がり理恵をソファに座るように勧める。
かぶりを振って断ろうとするが晋一に腕を引っ張られ、半ば強引にソファに腰を下ろした。
背もたれを横に、足を崩した形でマットレスの上に身をあずける。
「おばあちゃんの肩もみしてたんでちょっとは自信あるんですよ」
後ろから聞こえる晋一の声はどこか弾んでいた。
楽しんでる……なにがそんなに楽しいのだろうか、と少し怪訝な表情になるが、せっかくの好意なので甘えてみようと晋一に身を委ねた。
「髪の毛流しますね、引っ掻かちゃうと痛いので」
晋一の指がうなじにかかる髪を左右に分けていく。
首筋に指が触れる度に、理恵にしか分からないほど体が小さく反応した。
さらけ出された首筋にそっと指が下りてくる。
ゆっくり優しくラインに沿って力がくわえられていく。