ありのままに生きたくて 4
そんな話をしているとあっという間、コンビニから出発して5分ほどで綾香さんのお宅に到着してしまう。
「素敵なお家ですね。ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家みたいで」
「祖父母が力を入れてこんな風に造ったみたいで。昔はテレビの取材も来たみたいなんです」
そんな素敵な店舗兼住宅。
ただ、綾香さんひとりでは維持は大変だろうなと思ってしまう。
店を畳もうと思うのも無理はない。
「まあ、中に入ってください」
「はい」
カランカラン、とドアを開けると小気味よいベルの音。
ああ、雰囲気あるお店なんだぁ、としみじみ感じる。
「ホントに数人くらいしか入れないんですけどね」
「でも中も素敵ですね」
綾香さんが頑張って一人で切り盛りしてきた喫茶店。
それがなくなってしまうのがもったいないなと思ってしまう。
やっぱり、私が何とかしないと!ってより一層強く思うのだ…何もかも未経験なくせに。
『グー――』
「ぅあ」
「ふふ、藍さんったら、腹ペコさんですね」
確かに家を出てから食事らしい食事はしていなかった。
それでも気が張っていたからか、今まで空腹を感じることはなかったのだけど、安心したからか、急に身体が食べ物を欲っしてきた。
「恥ずかしいはぁ…、何か食べる物もあったりします?」
軽食ぐらいだったら喫茶店にもあるかしら?
「もちろん☆、都会と違って田舎は飲み物だけじゃやっていけないのよ…可愛い店舗に似合わず、定食だってメニューにあるのよ☆」
絵本のようなメニューを開いて見せてくれる。
確かに肉体労働者が喜ぶようなボリューミーな定食の写真が、所狭しと並んでいる。
「なんか、喫茶店とは思えないようなメニューですよね…」
「昔は開発の為にたくさんの業者さんがここを訪れていたんです。それも不況のあおりでどんどん減って、ダムの建設は知事が変わったことで凍結、今はリニアのトンネル工事がありますけど、ここからはだいぶ距離もあって」
綾香さんから聞く世知辛い話の数々。
ほとんど知らなかった私は世間知らずもいいとこだ。
「さ、そんなことより藍さん、何食べますか?なんなら大盛りもできますよ?」
「へ、へぇー…じゃあこのハンバーグカレーでも…」
バラエティ番組でデカ盛りメニューを平然と平らげた私に、共演者の方々が目を丸くされてたのを思い出したなぁ…
「は〜い、ではではお待ちくださいね〜♪」
「わ、わーい」
機嫌よく綾香さんが厨房へと入っていく。
メニューが出来上がるまでの間、店の中を見渡してみる。
ドラマのワンシーンに出てきそうな趣ある店内。
あぁ、そういえば私が戦隊ものでやってた女の子は普段はメイド喫茶の店員だった。こういう空気は似合わないなぁ。
「藍さんってお料理されますか?」
「私はもっぱら作るより食べる側です…あはは…」