XXX… 3
「そうかな…」
少し照れたように浅野が笑う。
今の私には浅野の笑顔がとても眩しく感じた。
「…何か飲む?」
少し気まずくなったのか、浅野はぎこちなく尋ねる。
「…あ、うん。でも…いいの?」
「何遠慮してんだよ。コーヒーと紅茶どっちがいい?あ、それともジュースとか?」
「…浅野と同じのでいい」
――何故だろう
顔が熱い…。
「んじゃ紅茶だな」
さて、とゆっくり立ち上がってキッチンへ向かう。
手持ちぶさたな私はキョロキョロと辺りを見回す。
「あんまり見んなよ。…普通すぎてつまんないから」
「そうかな…?何か…温かい感じがする。懐かしくて、つい『ただいま』って言いたくなるような家。…浅野がそのまま家になったみたい」
―――ハッ
言い終わった後に気がついた。
何言ってんの?私
こんな事、浅野に言ってどうすんの?
ふと顔を上げた瞬間、紅茶を手に持ったまま立っている浅野と目が合った。
「…何か、あったのか?」
私は、何も言えなかった。いや、言ってはいけないと思った。
きっと全てを話せば、浅野はきっとその優しさから、受け止めてくれるはず。
でもそれは愛情でなく同情・・・。
浅野を苦しめてはいけない。そう思った。
私は、浅野から紅茶を受け取った。その時、一瞬手が触れ合った。
冷たい手。だけどおっきい。そうだ・・・浅野は野球少年だったっけ・・・そんなことが頭をよぎった。
そっと紅茶を口に運ぶ。
「温かい・・・」その安堵の表情を浅野は立ったままほっとしたように眺めていた。
「そういう表情見ると変わってないって思うよ」
「大人っぽくなったっていうか・・・まあ最後に会ったのは小学校の頃だったもんな。当たり前か・・・でもやっぱり、よーく見るとやっぱ変わってないな」
私はこんなに変わったのに…あの頃私とは全然違うよ…そう思うとまた涙があふれ出てきた。腕の傷・・・見ず知らずの男と肌を重ね・・・いろいろなことが・・・そんな風に浅野に言われると涙が止まらなかった。