人生、いくらでもやり直せるさ 2
しばらくは一本道。
住宅街の中も明かりは少なくて、すれ違う車もほとんどない。
「この辺に住んでるのか?」
「………うん。……この前までは」
反応は薄いけど、ちゃんと答えてくれる。
それがかえってミステリアスな美少女っぽさを醸し出しているような気がする。
雨は次第に弱まってきた。
いつしか住宅街を抜け、山の中に入る。
この国道を行けば、さっきカーナビで示した通りに隣の県に行ける。
そちらのちょっとした地方都市に行くつもりで、俺は運転を続けた。
すれ違う車は、相変わらずほとんどない。
ふと横目に愛花さんを見ると、いつの間にか寝入っていた。時間も時間だし、疲れていたのだろう。
相変わらず小雨が続く夜道を、走り続けた。山道でややカーブが多いが、幸い急でも無かったし、後続車両もいないから余裕を持って走らせられる。
山道を抜け切ると、目指していた隣県の町にたどり着く。
雨はすっかりやんで、雲の間からお月様が顔をのぞかせようとしていた。
日付が変わる前に目的地のホテルについて、駐車場に車を止める。
「着いたよ」
「…………ん、ぁっ」
「疲れてるのかな?ベッドでゆっくり寝たらいい」
そう声をかけると小さな声で大丈夫ですと言いながら車から出る愛花さん。
途中のトイレで着替えたいと私服になったせいか、私服のチョイスのせいか大人びて見える。
それでも三十代の男と若い女の組み合わせは奇妙に見えるかもしれずフロントでは年甲斐も無くドキドキしてしまう。
だが、ビジネスホテル特有のドライな対応で特におかしな目で見られる事なく部屋までたどり着いたのだ。
ベッドの位置だけ決めてとりあえず座る。
彼女に色々理由は聞きたい気持ちも多少あるが、言えない事だってあるのは大人やってると分かってくる。
こちらも言えない事を多く抱えているのだ。
未成年の彼女を連れ回してる事で誘拐扱いされてしまうかもしれないが、既に全てを失った俺にとってどうでもいい事だった。
本当に、呆気ないぐらい簡単に全て失えるのだと思った。
金持ちとはいかないが、それなりに豊かな家庭に生まれた俺。
親父は頑固な料理人で、お袋が専業主婦できるぐらいには店は繁盛していた。
隣にはサラリーマン家庭が住んでいて、同級生女子である幼馴染みが妻だった。
いや、今は元妻だ。
彼女とは中学生辺りから意識し合い、高校生から本格的に付き合いだす。
そんな中、初体験も済ませ高校三年に・・・
秋も深まる頃に彼女の妊娠が発覚したのだ。
それで両家巻き込んでの大騒動に・・・
親父にボコボコに殴られながらも義両親が結婚は許してくれ、俺は親父の所に弟子入りして高校卒業後に彼女との新婚生活を開始した。
彼女が娘を生み、俺は親父から殴られながら仕事を覚え、義両親達に助けられながら生活して行った。
同級生で結婚した奴はいなかったものの、4つ上の姉貴の同級生は娘と同い年の子を持つママが多くて色々助けてくれた。
その姉貴も一年違いで結婚出産し、生まれた姪と共に家族ぐるみで仲良くしていた。
結婚して十年。
半人前の域を抜けた辺りで親父が脳卒中で倒れて急死した。
突然の事だったが、親父の店を俺が急遽継ぐ事になった。