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奇跡の男と牝奴隷たち
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奇跡の男と牝奴隷たち 88

ライラは星の落ちた夜、小さな地震がアンドレスの街に発生したことを、吟遊詩人ディオンに話した。
「地震が起きた?」
かつてエード族の街が湧きだした地下水で水中に沈むほどの大地震が発生した。それと同じ前兆と吟遊詩人ディオンだと考えていたのである。
吟遊詩人ディオンの予測は的確だった。
あの夜、アベコウキとマリーナがダンジョンにいなければ、大地震が発生していただろう。
バレンドルフの妻マノンも、たしかに少しだけ深夜に地震かあったことをおぼえていた。
「バレンドルフが寝ぼけて、大きな声を出して驚いて起きたの」
そう言うと、二人のテーブルから食べ終えた皿をさっと厨房の洗い場に運んでいく。どうやらバレンドルフ夫妻はとても仲睦まじいようである。
「赤髪の剣士と巫女の伝承をどう思うか?」
吟遊詩人ディオンに、ライラは質問してみた。
「その伝承の歌はエード族に伝わっている歌だ。だから歌に登場する巫女は、古代のエード族の神官と考えられる。鋼の剣、赤き髪、これは鉱石を鋼に鍛える技術を持つ民族で、髪の色が民族の特徴と考えるなら、剣士は北のカルーム族だろう」
そこまでは、ライラと吟遊詩人ディオンの推測は、同じである。
「カルーム族にも、エード族の登場する伝承の歌があるのを君は知っているか?」
「知らない」
ライラが答えると、吟遊詩人ディオンはリュートを奏でながら、カルーム族の詩歌をライラとバレンドルフの妻マノンの前で披露してみせた。
岩に刺されし王者の証の剣あり
という、カルーム族の王の剣をめぐる物語である。
双子の王子がいて、二人のうちどちらかを岩から剣を抜いた方を王とすると大山脈に登る。
途中の村で双子の兄の王子は弟の王子が寝ているうちに毒蛇に咬ませた。
弟の王子が高熱で動けぬうちに、兄の王子が王の剣のありかに先に到着した。
山奥の洞窟には王の剣以外の財宝もあった。
王の剣を岩から抜くことはできなかったが、財宝と財宝の中に王の剣にそっくりの剣があった。
兄の王子は弟の王子を村に残し、先に下山して王の剣を王にみせた。王の剣ではないが切れ味は抜群。
兄の王子が王位を継承する者と王が宣言した。
兄の王子は、ひそかに弟を始末しようと山奥の村ごと焼き払う。失踪した弟の王子が帰還したとき、手には本当の王の剣を手にしていた。
どちらの剣が本当の王者の剣かわかるものはいないかと、王が言ったとき、二人の王子の前に異国の巫女があらわれた。
「本当の王の剣などありはしません」
ある刀匠が荒ぶる山の精霊を鎮めるために捧げる刀を王の命令で作った。そのできばえが見事であったので、刀匠が同じ剣をもう一本作って隠した。
兄の王子の剣はその剣で、弟の王子の剣は精霊に捧げられた剣であると。
弟の王子は、その異国の巫女が山奥の村で治療をしてくれた美しい娘であることに気がついた。
兄の王子は、巫女に一目惚れをした。
どちらか選べと王に言われた巫女を、精霊が王宮から連れ去ってしまう。捧げられた剣のかわりに。
弟の王子は王の地位を兄の王子に譲り、自分の剣を精霊に捧げることで巫女を奪還して妻とした。
王族の身分も捨て出奔した弟の王子が、巫女を妻として、身分を捨てて民に慕われながら暮らしていると兄の王子は知った。
「今日はここまで、続きはまたの機会に」
吟遊詩人ディオンが、拍手をしたバレンドルフの妻マノンにウインクして言った。
「エード族の巫女と赤髪の剣士の歌とカルーム族の王の剣の歌が、同じ人物の物語としてつながっているとしたら、俺はおもしろいと思っている」
ライラは、アンドレスの街に瞬間移動の魔法陣があることを、吟遊詩人ディオンに教えてしまいたい誘惑にかられた。

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