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奇跡の男と牝奴隷たち
官能リレー小説 - その他

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奇跡の男と牝奴隷たち 157

「今年もいい酒ができたな」
「ああ、二十年後が楽しみだ」
収穫された七種の果実から造られた新酒も甘さのわりに口当たりもよく美味ではあるが、二十年熟成させた果実酒はもっとコクがあり強い酒になる。
トレスカーナの街の住人たちは酒を管理し続けているので、オーリッサの都が崩壊しようが関係なく酒を造り続けているのであった。
吟遊詩人ディオンはトレスカーナの街に立ち寄るのをとても楽しみにしていた。二十年熟成とはいかないが、五年熟成の酒は酒場で注文すれば飲むことができるからである。他の街では、たとえ王都エルドニアやアンドレスの街でも飲むことができない。
二十年熟成した果実酒は、遠くまで輸送してもよほど野外で雨風にさらしたりしない限り劣化しないが新酒や五年熟成ものは劣化してしまうために、運びだせない。トレスカーナの街でしか味わえないというわけである。
トレスカーナの街には結婚した年の新酒を保存してもらい、二十年後、夫婦で飲むという習慣がある。
「なあ、ライラ、俺たちの酒も保存してもらっておかないか?」
「二十年しないうちにディオン飲みそう」
「そんなことはないぞ、たぶん」
トレスカーナの街に三年前にふらりとやってきて職人にまざって一緒に酒を造り、今年も新酒を飲んでいる若者がいる。物覚えが早く、器用で、弟子の職人たちよりも見込みがある。
酒造りの職人ラウノはジョルジュに「そろそろ結婚して、この街にずっと住まないか」と声をかけた。
「お父さん、ジョルジュくん、困ってるじゃない」
そう言って、ジョルジュの手を引いて父親のそばから引き離していったのは今年二十四歳になる娘マイリスであった。
(やれやれ、腕が良くてもよ、惚れてない奴に嫁がせるほど、おらぁ、やぼじゃねぇつもりだけどな)
新酒が完成すると、酒造りの職人たちは毎年集まって酒を酌み交わして盛大にパーティーをする。
ジョルジュがどこで生まれて、どこで育ったのか誰も聞かなかった。ただ一生懸命に、一緒に汗を流して果実園で七種の果実を育て、収穫して、酒に適した実を選別して、湧き水を運び、選んだ果実を大樽に入れ、気温や天候を気にしなから混ぜ続ける。それができれば仲間で、血のつながりはなくても家族のようなものだった。
(なあ、ジョルジュ、娘のマイリスは今が熟れ時だぞ)
と酒造り職人の頭領ラウノは思う。
体を酷使するきつい仕事で気性の荒い者も少なくない。その中でジョルジュは気が優しい。マイリスはそんなジョルジュが気になっている。
三年間でジョルジュは、マイリスが見てもずいぶん逞しい体つきになったと思う。
ジョルジュはどしゃ降りの雨の日に街の酒場にやって来た。ひどい高熱を出していた。マイリスは酒場で酒造りの職人たちの食事と疲れを癒す酒を毎日提供するのが仕事である。
ずぶ濡れのロープや衣服を脱がせ、サイズの大きい父親の衣服を着せてやり、自分の寝室でジョルジュを寝かせた。ジョルジュが目をさますと熱いスープを飲ませて看病した。
その恩返しのつもりなのだろう。他の職人の半分の給料でジョルジュは働き続けている。
酒造りの職人ラウノはジョルジュが娘のマイリスと結婚するか、いつか考えがあって出ていくにしても、払っていない給料分は機会をみて渡すつもりでいた。

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