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初恋の人は
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初恋の人は 9

俺がそう言うと、彼女は微笑んで頬にキスしてきた。

「ま、冗談はほどほどにして・・・私がコーくんに求めてるのは、プライベートのお相手だから」
「うん、俺も今はきららだけでいいかな」

そう答えると今度は唇にキス。
微笑みながら彼女が言う。

「まずは朝ごはんにしましょ!」


朝ごはんはトーストにベーコンエッグ。
自分で作ると不恰好なのに、彼女が作ると美味しく見える。
慣れ不慣れと言うのもあるだろうけど、多分彼女が作ってくれているからだろう。

「料理道具とか、コーヒーメーカーとかいいもの使ってるのね・・・凄くやりやすかったわ」
「親が安物買うなって主義でね・・・安物だと大事にしないし脆いし、結局余計なお金がかかるって事だと」

向かい合って食べながら他愛の無い話をするのが何だか楽しい。
間違いなく1人より華やいでる。

「いい事だと思うわ・・・よく考えたら私の家なんて、安物買いの銭失いの典型だったわ」

そう言って笑う彼女は少し寂しそうではあった。

喜多岡由衣は、見た目良家のお嬢様という印象を抱かせていた。
しかし実際には家庭の経済状況はよくなく、親が借金を抱えるという事態。
事業の失敗なのかギャンブル狂いからくるものだったのかはよくわからないけど、家の周囲に強面の怪しげなお兄さんを見かけることが増え、ついに一家夜逃げに発展する。

「親が今どこで何してるかも知らないわ。むしろ知りたくもない」

自分を売り飛ばした元凶だったとしたら彼女の気持ちは理解できる。

「そう言えばコーくん、ユーちゃんは元気?」

ユーちゃん、とは俺の4歳下の妹だ。由衣を実の姉のように慕っていて、喜多岡家が忽然と姿を消した時には俺以上に大きなショックを受けていた。

俺の妹の優奈は現在中学生。
我が家の逞しい体格を受け継いだ妹は、女子ラグビーをやっていたりする。
同じスポーツをしている兄と妹だけに仲も良いと思う。

「おばさまやユーちゃんには今の私は見せられないけどね」

少し寂しそうに笑う彼女。
何となく思いは理解できる。
あの頃はもう戻ってこないのだろう。
彼女も借金返し終えたとしても、売春経験やAV経験は消せない過去として付きまとうだろう。
セフレでいいと言った彼女の思いからもそれが垣間見える。

「この後一旦家に戻って着替えてくるけど、もし暇ならデートに付き合ってくれない?」
「勿論喜んでいくさ・・・でもいいのかい?」
「昨日は撮影終わりで結川きららのままだったけど、メイクし直して喜多岡由衣になってくるわ・・・その方がいいでしょ?」

どうやら陰キャの俺に合わせてくれるらしい。
今の垢抜けた感じの結川きららは俺の好みのど真ん中だが、少し古風なお嬢様然した喜多岡由衣も勿論好きである。

あの頃の淡い記憶を思い出すかもしれない。彼女も当時に戻りたい願望が残ってるのかもしれない。

「それじゃ、ちょっとの間だけ待っててね」
「ああ」
彼女は笑顔で軽く手を振って出て行った。

「ふぅ…」

彼女の手料理の朝食を食べ終え、食器をまとめて食洗機に突っ込む。
しばしの待ち時間、何してようかな…

「あの頃、か」

俺は本棚の奥にしまっていたDVDのパッケージを一つとりだした。
ディスクを出して、ノートパソコンで再生する。
彼女―結川きららとしての、デビュー作。

自信なさげに周りをキョロキョロ見ながらソファーに座る美少女。
緊張からか表情は硬い。

その姿はまだ結川きららになりきっていない。
喜多岡由衣のままだ。

「結川きらら、18歳です」
「おっ、きららちゃんは高校卒業したばかりかな?」
「はい、卒業したばかりです」

自己紹介も少し固い。
因みにさっき聞いたが、彼女は高校に進学できなかったらしい。
だからこのプロフィールも芸名同様作られたものだ。

「体験人数は何人かな?」
「はい、3人です」
「いつ頃初体験を?」
「高2の時、知り合いのおじさまと・・・」

固いが言葉はしっかり喋っている。
勿論作られたプロフィールと言う事だが。

本当の初体験は中2の頃で、彼女の処女を買ったオヤジと事に及んだらしい。
俺が恋心を抱いた頃には、彼女はオヤジ達の欲望で汚されていたと言う事だ。

「おっぱい大きいね」
「はい、Iカップです」
「昔から大きかったの?」
「はい、小6でC、中3でGでした」

そうだ、彼女はそれぐらいの頃から目立つ程大きかった。
ただ俺の性の目覚めは彼女でなく、小6の時の新任の女の先生だった。

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