ゼロから始める夫婦生活 5
いきなり襲いかかって子作りでもするとでも思ってたんだろうか。
その上、愛人も何人か囲ってとか・・・
そこまで無節操じゃないと、自分では思っている。
高速のインターに入りながら音楽に耳を傾ける。
彼女の趣味が知りたいから音楽をチョイスしてくれるように頼んでいた。
彼女が持ってるスマホに入ってる音楽から車に繋いで鳴る曲の数々。
洋楽のゆったりとした女性ボーカルで、癒される感じの曲調のが続いていた。
「これは、アイツの趣味じゃないな」
「直哉さんは、こう言うのお嫌いですか?」
「いや、しっとりとしてるけどドライブに合わない訳じゃない・・・可愛い女の子を乗せて遠出にはいいんじゃないかな」
俺の言葉にちょっとだけ唯が赤くなった。
そこが可愛らしい。
その可愛らしさとシートベルトで大きなおっぱいに谷間ができて強調されるのが気になるけどグッと我慢する。
高速乗って30分程走って海沿いにあるアウトレット。
そこには映画館も併設されている。
そう、まずはデート、欲望は後回しだ。
「デートとかしたこと無いって言ってたよね?」
「はい、お付き合いした男性は公平さんが初めてでしたし・・・公平さんは無駄な行為はしませんから・・・」
アイツらしい。
そして、そう言っても許されるのがアイツだ。
さっきの音楽談義もそうだけど、自分が無駄と思うものには一切手を出さないのが公平と言う男だった。
「俺は無駄な行為が大好きなんだよ・・・ついぞ彼女できなかったけどね」
「そうなんですかっ?!・・・みんな見る目が無さすぎます・・・」
学生時代なんてそうだったけど、公平と一緒にいればどうしても俺なんて付属のゴミ扱いだしなぁ・・・
場の盛り上げ役的なポジションで才能を発揮できた事で生き残れたけど、喋ってくれる女の子は綾瀬達3人ぐらいだったと思う。
公平が死んで俺がバタバタと結婚と社長就任したら、昔の知り合いからかなり多くの『お前が死ねばよかったのに』的なお言葉を頂いた。
実際、味方になってくれてるのは唯と綾瀬達しかいないぐらいで、自分でも感心するぐらいの状況だ。
誰からも尊敬され信頼される男とどうでもいい存在だった男じゃ、大違いだよな。
今与えられた状況を受け入れ、本当に幸せになるために努力するのが俺の使命だろう。
それをすべてやり遂げたうえで公平の墓前に、いつか報告したいものだと思う。
駐車場に車を止め、映画館を目指す。
「どの作品を見るんですか?」
「最近のトレンドとか、あまりわからない?」
「公平さんはニュースしか見なくて、バラエティやエンタメもあまり…」
まあ、そんなところだと思ってた。なのでいろいろと唯に説明する。
興行収入が国内レコードに達するとか話題のアニメ映画。
都会の男子高校生と田舎の女子高生の人格が入れ替わってしまう、とかいう内容の作品だ。
「直哉さんは、もうご覧になったのですか?」
「まだ。行きたい行きたいとは思っていたけど一緒に行く人もいなかったしね」
正直に言うと、行きたくてもそんな金の余裕はこれまでなかった。
「SFお好きなんですか?」
「まあそうかなあ」
「SFと言う程じゃないから気楽に見れると思うよ」
そう言って唯の手を握ると、唯はびっくりしたような顔をする。
「男の人と手を繋ぐの・・・初めてです・・・」
「そっかぁ、俺もそんなに女の子と手を繋いだ事無いよ」
そう言う唯に言葉を返すと、少しだけ頬を赤くしてはにかんでいた。
それがまた可愛らしくて、公平は何でこんな素晴らしい事をしないんだろうと思ってしまうぐらいだった。
いや、アイツは・・・
そんな事しなくても女から無条件に好かれる奴だった。
だから逆に女を無闇に近づけなかった。
アイツの側にいれた女子は綾瀬達三人ぐらいのもので、その理由が美人だからではなく能力だって言ってた記憶がある。
親友だったが、価値観は全く合わなかったと今更にして思い苦笑してしまった。
そして、俺は映画のチケットを二人分買う。
海外赴任が数年、その後すぐにリストラで再就職に手こずって荒んでいたから、映画なんて俺も久しぶりだった。