ゼロから始める夫婦生活 1
平日の昼間。
仕事を失って数週間、求職中の俺はアパートの自分の部屋でパソコンの求人サイトを見ながら過ごしていた。
ピンポーン
「…誰だ?」
ネットで何か買った覚えはないしおそらく勧誘の類だろう、そんな風に思っていた。
面倒くさいけど一応。一言であしらおう。
「あの…」
ドアを開けたら何とびっくり、物凄い美少女が立っていた。
しかしその子には全く見覚えがない。きっと人違いだと思う…
「浅野直哉さんですか?」
「え、ええっ、そう、だけど…」
どうして俺の名前を知っているんだこの子。
まさか前世でどうのこうのとかいうちょっとヤバめの子じゃないだろうな…凄い可愛いのに残念な…
「藤枝公平さん、ご存知ですよね」
「あ、ああ…公平の…?」
藤枝公平とは俺の大親友…大手企業に勤めながら株とか投資とかでかなり稼いでいるって聞いたが…
「桜川唯です。公平さんの婚約者でした」
「婚約者…でした?なぜ過去形?」
「先日亡くなったんです…癌だったんです」
「ええっ!?」
仕事も順風満帆、こんな可愛い婚約者がいて俺なんかとは比べ物にならない人生の勝ち組のはずの公平が…まさか…
「なんで君は俺のところに…」
「公平さんの遺言です…私を任せられるのはアイツしかいないんだって…」
「ぅえっ?;…ま、任せられるって…?、そ、それどういうこと?…」
俺は目を白黒させてしまう…
「こんなこと突然言ってごめんなさい…ビックリしますよね…」
それゃあそうだ;…
公平が亡くなったことさえ驚きなのに、その公平が俺にこんな可愛い婚約者を任せるって…
「公平さんの会社・・・」
「あっ・・・」
彼女に言われて俺は気付いた。
随分前に公平が脱サラして会社立ち上げるのに俺が手伝った事があった。
その時、俺は別会社に勤めていたし、今の勤め先にいたまま片手間で出来る程度とは聞いていた。
「会社は大きくなって公平さんはそちらに専念してたのですが、公平さんの死で混乱して・・・公平さんはそれも直哉さんに任せれば大丈夫と・・・」
そうか・・・
そこまでは知らなかった。
確かに仕事としては俺が関われるとは思うけど、俺で大丈夫なのだろうか・・・
正直言って不安しかない。
昔から公平は常に俺の上にいた。羨ましい思いはあるけど、妬ましくは思わなかった。
何より、俺のピンチを何度も救ってくれた男だ。
小学生の学芸会、セリフを度忘れした俺を、公平が急きょのアドリブで思い出させてくれた。
高校のサッカー部の試合、勝利目前で俺が献上してしまったPKを、ゴールキーパーの公平が止めてくれたこともあった。
誰よりも頼れる男だった。でも今はもう、あいつはこの世にはいない。
……そうか、これは公平に恩返しする、ってことか?